キャリアについてのよしなし

MBAで元エージェントの外資系採用マネージャーがキャリア形成の戦略と定石を解説します 現在は不定期更新

新卒初任給が思ったより少ないと感じたら:何から始めるべきなのか

そろそろ初任給の時期です。初めて手にするまとまったお金をどう使おうか、胸を膨らませている人も多いのではないでしょうか。さてそれに水を差すようですがこんな記事を見かけました。

news.yahoo.co.jp

 

"4月も後半に入り、今年の春、新卒で社会人デビューした人の中には、初任給を手にする人も出てくる頃です。学生時代の友人と、ざっくばらんにその額を言い合うということも。そこで思わぬ給与格差に驚く人も少なからずいるでしょう。しかしそれは、この先続く「格差社会」の序章でしかありません。" 

今年の新卒の人たちは去年の大混乱した「コロナ就活」のすえに入社してきている人たちが大半です。なかには希望通りの業界・会社に就職した人もいれば、そうではない人もいるでしょう。

 

いずれにしても、実はこのタイミングで改めて自分の給料について、明細をまじまじと眺めながら考えてみるのはとても良いことです。自分の給料は自分が提供した労働に見合うものでしょうか。あるいはまだ研修中でもらいすぎだと感じたでしょうか。

他の業界の新人と比べて高かったでしょうか、あるいは低かったでしょうか。

将来的に今の何倍くらい稼いでいきたいでしょうか。

なぜ給料について一度考えてみるべきなのか

なぜこういうことをわざわざ入社したばかりのタイミングで考えるのが良いかといえば、将来的にどれくらい稼いでいけるかどうかは28歳くらいまでの選択でだいたい決まってしまうからです。

 

年収は色々な要素で決まりますが、一番大きいのはどんなマーケットを選ぶかです。そして28歳くらいまではマーケット選びに広い選択肢があります。逆に28歳をこえたあたりからマーケットは細分化され、今いる場所から動きづらくなります。

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なので、もし大学卒の方であればあと5年以内くらいにアクションを取る必要があります。結構時間がないものなのです。

 

このことは詳しくは下記の記事にまとめています。

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だから実際に初任給を受け取ってみて、一度じっくり考えてみるべきです。具体的には、

  • 今の給料にどの程度満足感があるか
  • 先輩や上司はだいたいどれ位の収入を得ていそうか
  • 自分の生活設計とマッチしてるのか

またできればその業界で将来的に得られそうな年収がどの程度なのか情報収集するとよいです。

 

その結果、自分が実はお金にあまり拘りがないタイプだと気づくかもしれません。私はどちらかといえばそういうタイプでした。

逆に自分の希望とギャップが大きいと感じるかもしれません。この場合は早めにアクションをとりましょう。では具体的にはどんなアクションをとったらいいのでしょうか?

最初のアクションは

それは必ずしも転職活動をするということではありません。

大事なのは市場価値を高めるためのアクションを早めにとっていくということです。そして逆説的ですが、それは特に新卒の場合「目の前の仕事を頑張る」「早く仕事を覚えて戦力になる」だったりすることもあります。

 

下記の記事でも触れていますが、場合によってはすぐに転職することがあなたの将来的な市場価値を悪くすることもあります。

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割と多くのケースで、いまの仕事をがんばりスキルをつけて成果を上げていくことが最適解になります。

(ただし入社してとんでもないブラックだった、今にも病みそうといったケースは別)

それで3年後をめどにちゃんと転職できるような力をつけておくと良いですね。

そして実際に3年たって再度給料や転職について考えてみて、やっぱり自分に転職は不要だなと思えば留まれば良いのです。価値観は変わるものですから。

 

大事なのはタイムリミットを意識することです。

マーケットを移る(たとえば経理から営業になる)のには年齢制限があります。なのでそれまでにちゃんと手を打っておくことです。そうすれば上で引用した記事のような「給料格差」に悩まされることも減ります。かりに給料格差があったとしても自分であえて選んだ結果なら納得できるものです。

 

最初の転職は20代ですべき?成功しすいキャリアのパターンとは

中途採用面接なんかでいろいろな方のお話をうかがっていると、うまくいきやすいキャリアのパターンがあることに気がつきます。今日はそれを紹介しましょう。

成功しやすいキャリアのパターン

そもそも何を持って成功とみなすかは難しいところです。さしあたりはこの記事で解説したような、「年収と自分が大事にしたい価値観、両方をバランスよく満たすことができる」状態を成功としましょう。私はこの状態を「自由度が高い状態」と呼んでいます。

 

それで早速ですが、私がよく見かける典型的な成功しやすいパターンがこれです。

●若いうち(35歳くらいまで)に1〜2回転職して、合計2~3社で異なる業界・職種・会社を経験
●30代中盤くらいから落ち着いて一社一社長めに勤める

 

さてなぜこのパターンだとうまくいきやすいのか?

それは若いうちに複数の選択肢を試すことで、自分にあった業界・職種・会社に巡り合う可能性が高まるからです。

 

このサイトでは以前から20代のうちに自分にあった土俵を選ぼう、という話をしています。

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仕事の向き・不向きは自らの性格に影響されます。また過去の経験でつちかった特性、価値観にも影響されます。

 

だからやってみないとわからないんですね。これが仕事選びの難しいところです。ですが試行回数が増えればそれだけマッチする可能性が高まります。

そしてマッチした仕事や会社に出会う事ができれば、その分だけ生産性もやりがいも高まります。

 

早いうちに色々ためしてみる方があとあとうまくいく。

このことは他の場面、たとえば交際相手を探すときには意識されてる人を見かけるのですが、こと仕事になると「最初の会社で長く務めなきゃ」という呪縛が強い。それで動けなくなる人が多い印象があります。

 

では若いうちに転職しまくればいいのかというと、そうでもありません。日本ではジョブホッパー(短期転職を繰り返す人)が嫌われる傾向が強いので、あまりに転職しすぎるとマーケットバリューが下がります。

 

それで上述した、

●若いうち(35歳くらいまで)に1〜2回転職して、合計2~3社で異なる業界・職種・会社を経験
●30代中盤くらいから落ち着いて一社一社長めに勤める

というのは、わりとそのあたりのバランスのとれたプランなのでおすすめです。(私自身もこのパターンに該当します)

転職以外の選択肢もある

ちなみに複数の選択肢を試すためには転職以外の方法もあります。

 

たとえば若手社員を対象としたジョブローテーションによって複数職種を経験できる場合。最近ジョブローテーションはネガティブな言われ方をされることが多いですが、若いうちに色々な職種にトライできるというメリットもあります。

 

たとえば過去お会いした方でこんな方がいました。

 

入社時 メーカーで営業部門に配属
4年目 ジョブローテで人事に異動
7年目 ローテで再び営業に異動
8年目 はやり人事の仕事をしたいので別のメーカーに転職

 

この方の場合は一度経験した人事の仕事が自分にすごく合っていた。それが20代で分かったので、30代になってすぐ転職しています。

これはジョブローテがなければ分からなかったことでしょう。このように若手の間は日系総合職特有のジョブローテを活用して色々な仕事を経験し、そのあと専門家として一本立ちするというのは結構おすすめのキャリアパターンです。

 

 

また会社によっては社内公募や自己申告制度で別部門・違う仕事にトライすることもできます。

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こういう制度を活用して若いうちに試行回数を増やすのも成功しやすいパターンです。社内公募や自己申告制度による異動は自分の意志が反映されるぶん、ジョブローテより主体的にキャリアデザインできるというメリットがありますね。

 

なので就活の時点でそういう主体的なキャリアデザインの可能な会社かを意識するのはとても大事なことだと思っています。

さらに付け足すと、最近は副業を解禁する会社も増えています。若い人の場合、副業は単なる収入源として期待するだけでなく、仕事の向き不向きを試すために副業を活用する方法もおすすめですね。 

 

「転職成功」を実現するための、一番大事なこと

今日は【キャリアップ】という言葉を題材に、転職を「転職して良かった」「成功だった」と言えるようなものにするためのポイントをご紹介します。

「キャリアアップのための転職」は失敗しやすい、そのたった一つの理由

転職活動の理由として、「キャリアアップのため」という理由を挙げられる方はとても多いです。 

ところが個人的にはこれはちょっと危険なフレーズだと思っています。なぜならキャリアアップという言葉だと、転職理由としては抽象度が高すぎるからです。

 

そもそもキャリアップってなんでしょうか?

 

仮にキャリアアップ=年収UPだとします。この場合、もし同時に残業が山ほど増えてしまったらそれはキャリアップでしょうか?

 

あるいは肩書き(タイトル)が上がることだとします。この場合、最近はやりのフラット組織で大きな責任と自律性をもって働いている人と、肩書きはあるものの一見意味がないような調整業務や退屈な会議なんかが大量にある人、どちらがキャリアアップでしょうか?

 

なんとなく「キャリアップ」とだけ口にしていると、こういった質問に答えられません。ところがこういった質問こそが大事なのです。

キャリアップを超えて、価値観を定義しよう

なぜならこれらは自分にとって「キャリアで何が実現できていると幸せなのか(=価値観)」を定義する質問だからです。

 

自分の価値観が明確になっていると、仕事に対する満足度やモチベーション、生産性が高まります(*1)

一方でキャリアップという言葉は、ちょっと思考停止させてしまう面がある。

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「キャリアップしたい」だけで立ち止まらずに、自分は本当は何が実現できるとハッピーなのか突き詰めて考えて欲しいのです。

 

就活の時は多くの人が自己分析をします。ところが一度就職したあとに自己分析をする人はとても少ない。

でも本来は就活したあともするべきです。個人の職務経験、転勤・転居、生活や家族構成の変化などを踏まえて定期的に自己分析し、価値観を明確にする。その上で転職活動をした方がいいです。

 

先ほどの例でいうと、「肩書きが上がる」のが自分にとって心から大事と思えるならそれでいい。そこが明確になってないまま、なんとなくイメージで「肩書きが上がるのはいいことだ」と思い込んでいると失敗します。

どうやって価値観を知るか

普通に就職活動用の自己分析本で問題ありません。先に断っておくと、自己分析は結構時間がかかります。エネルギーも使います。

ただその分ちゃんとやっておくと、失敗転職を予防できるので、それだけの価値はあると思っています。

また面接にも役立ちますから、転職活動の序盤に丸1日時間をとって自己分析をするといいですね。その後の転職活動が全然変わってきますので。

 

関連記事です。 自分の価値観を整理しておくことは幸福感のt

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注釈

*1・・・「リーダーシップ・チャレンジ」ジェームズ・M・クーゼス (著)、海と月社

 

有利な転職タイミングとは、景気の客観的な判断指標

景気は就職・転職の有利不利に大きく影響します。

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では有利なタイミング、不利なタイミングを客観的に判断するにはどうすればいいでしょうか?

転職の有利なタイミング・不利なタイミングを見る指標とは

私のおすすめは厚労省の有効求人倍率のデータを見ることです。

ググるとすぐ出てきますが、一応リンクも貼っておきます。

職業紹介-都道府県別有効求人倍率:主要労働統計指標|労働政策研究・研修機構(JILPT)

 

このデータを都道府県別に見ていってもいいですが、全国平均だけでもだいだいの傾向はつかめます。

 

傾向の目安はこんな感じです。

0.8倍を下回る・・・買手市場。あまり転職はお勧めできない
0.8倍〜1.0倍・・・普通〜やや買い手市場。転職は可能。
1.0倍〜1.2倍・・・転職しやすい。年収Up チャンスも
1.2倍〜・・・売手市場。とても年収Upしやすい

これを1990年以降の全国有効求人倍率のグラフに反映したのが以下です。

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私は2000年代の中盤からずっと採用の最前線にいますが、このグラフはマーケットの状況をかなり正確に反映していると思います。

2003年まで・・・氷河期。転職しづらかった。

2004・2005年・・・回復期。転職しやすさは普通。

2006〜2008年前半・・・転職しやすかった。エージェント各社が急成長。

2008年後半〜2011年・・・リーマンショック不況。転職しづらい。

2012〜2013年・・・回復期。転職しやすさは普通。

2014〜2015年・・・人手不足が騒がれるように。転職しやすかった。

2016〜2019年・・・超売手市場。ものすごく転職しやすかった。

特に年収アップしていきたい場合、転職のタイミングはかなり影響します。だから好景気(橙・赤)になるべく動くとうまくいきやすいです。

(逆に不況(青の時期)に、特に不満がないのに好待遇につられて転職するのは一般的にはあまりおすすめできません)

不景気でも転職したい場合は

ただそうは言っても激務で心身が病みそうだったり、配偶者の転勤、あるいはハラスメントなどの理由でとにかく辞めたい!ということもあるでしょう。

また全く異なる職種にチャレンジするには年齢制限があります(下記参照)。

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このように景気回復を待っていられない時は不景気だろうと転職すればよいのです。

短期離職を繰り返していたりしない限り、粘り強く活動すれば転職先は見つかります。

 

そして転職先で景気がよくなるまで待つ。景気が良くなってきたら動く。目安は求人倍率1倍以上です。これでかなり良い転職先を見つけることができます。

 

関連記事です。不況をやりすごす方法についてもう少し詳しく解説しています。

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不景気のあいだに自己投資をしておくと、景気がよくなったときに年収をジャンプアップできます。

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記事紹介:成長の早い人たちがしているたった一つのこと

今日はキャリア分野での著作もあるコンサルタントのホイットニー・ジョンソンが今年Linked Inに投稿していた記事を紹介したいと思います。

 

「成長の早い人たち(High Growth People)がしているたった一つのこと(そしてなぜそれをすべきか)

www.linkedin.com

 

筆者であるジョンソンはかねてよりキャリアにおいて意図的に「創造的破壊」や混乱をとりこみ、それによって成長することの重要性を主張しています。

One of the best ways to cope with, and even harness the forces of constant disruption so as to grow faster, is to become the agent of your own disruption—to disrupt yourself. (絶え間ない混乱の脅威に対処し、さらにそれを利用してより速く成長するための一番良い方法のひとつは、自分自身の混乱をもたらす人になるーすなわち自分自身を混乱させることです。

新しい可能性を切り開いたり、成長を早めたりするためには意図的な混乱や破壊が必要だと彼女は言います。つまり自分が心地よいと感じる状態(コンフォートゾーン)から一歩抜け出してチャレンジしたり、新しいことを始めたりするということです。つまり新しい仕事に取り組む、転職する、希望を出して異動するといったアクションです。

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そしてその効能は、

  • 自分自身
  • 自分の愛する人や家族
  • 同僚
  • 市場
  • 世界経済

といった多岐に渡る対象に発揮されるというのです。この中で特に自分自身ということについていえば、主体的・能動的にキャリアを切り開くようなアクション・布石をとった人はそうでない人よりもキャリアの満足度が高いという研究もあります。

As you progress along a new path, your brain is lubricated by dopamine, a learning-loving neurotransmitter that generates feelings of well-being. Disrupting yourself makes you happy. (あなたが新しい道のりを歩んでいくにつれて、あなたの脳はドーパミンによって働きがよくなります。幸福感を生み出す神経伝達物質であるドーパミンは、学習することが大好きです。自分を混乱させることはあなたを幸せにするのです)

以前以下の記事で、年収を「普通以上に」高めるためには停滞しはじめている状況でこそインプットを増やせるような行動をとることで、停滞期を短縮することが大事だと説明しました。

www.career-yoshinashi.com

こういう主体的にキャリアを動かしていくようなアクションは実は年収を高めるのに役立つだけでなく、幸福感を高めてくれるということですね。

 

上記の記事はさほど長くなく、良い内容なので英語が苦手でなければぜひ一度ご一読を。LinkedIn Learningに登録している方であれば彼女のオンラインコースも受講でき、こちらもおすすめですね。

評価を上げるための科学的な戦略とは?職種ごとに異なる成功法則

会社員の場合、当たり前ですがどう評価されるかというのは大事です。そして、評価されるための戦略は職種ごとに違います。今回はこの、職種ごとに最適化された被評価戦略について解説したいと思います。

 

(評価を気にしないというのも一つの価値観なので、それはぜんぜん否定しないのですが、今回はいったん脇においておきます)

 

そもそも評価ってなんでしょう

評価とはなんでしょうか?

これは経験・スキルとともに、社内における市場価値(マーケットバリュー)のもとになるものと考えることができます。

 

下記エントリーで説明したように、高い評価はさまざま面でキャリアの自由度を高めてくれます。

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社内で高評価を得られれば、残業せずにさっさと帰っても上司に睨まれずらくなります。異動の希望も通りやすくなります。

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評価=昇進・昇格に必要なものというイメージを持っている方が多いのですが、むしろ高い社内評価の本当の効用は「選択肢を広く持てるようになること」です。だからキャリア形成の戦略を考える上で評価は避けて通ることができません。

 

被評価の戦略とは

このサイトで解説しているキャリア形成のセオリーのうち特に大事なのが「土俵選び」です。

選んだ土俵(職種×業界×土地)によって最適なキャリア戦略は異なるため、第二新卒として職種変更が可能な上限年齢=28歳くらいまでに自分にあった土俵を選ぶことが大事という考え方で、これについては下記のエントリーで詳しく解説しています。

 

被評価の戦略においてもベースになるのが土俵の違いです。特に職種が影響します。

 

私もいちど、この違いに直面したことがあります。私は若いころに人材紹介のエージェントから人事に転職しました。そのときエージェント(営業職)と人事では評価を得るためのポイントが違うことに気づきました。

 

人事には人事に最適な、「被」評価の戦略がある。実はこれはある程度科学的に説明されています。 

科学的に証明された成功のフォーミュラ

同じようにすごい成果をあげた人・同じようにすごいパフォーマンスを発揮する人の中に、それが成功に結びつく人とそうではない人がいる。

 

実力があるのに不遇のミュージシャン、

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業績はいいはずなのに出世しない同僚など、

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こういう例は枚挙にいとまがありません。

 

では何が成否を分けるのか?この謎について研究したのが米ノースイースタン大学教授で、著名な作家でもあるアルバート=ラズロ・バラバシ教授です。

彼は「何が成功をもたらすか」についてネットワークの観点から研究を行い、その結果いくつかの法則を発見しました。

 

その法則には色々あるのですが、特に「被評価の戦略」において重要なセオリーは以下の2つに集約されます。

セオリー1:パフォーマンスを明確に測定できるときは、パフォーマンスが成功をもたらす。
セオリー2:パフォーマンスが測定できないときは、ネットワークが成功を促す。

 

パフォーマンスが測定できる分野とは、たとえばテニスです。

テニスでは大会成績やランキングという明確なパフォーマンス測定の基準があり、こういう分野ではパフォーマンスがそのまま成功(年収)を左右します。

 

逆にパフォーマンスを明確に測定できない分野とは、たとえば絵画です。

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絵画のような分野では、パフォーマンスが上がるにつれてパフォーマンス自体が成功の決定的な要因ではなくなるのです。

 

どういうことかというと 1流の絵画と素人の絵画の区別はつくけど、1流と1.5流の区別はつけづらいため、もっと他の要素が成功のカギになります。つまり他の人が良いと言っているかとか、見た目が1流っぽく見えるかと、あるいは1流の人と繋がりがあるか、などの要素です。

 

実際に上記の研究によれば、成功したアーティストがキャリアの早い段階で有力な美術館・ギャラリーとのコネクションを築いていたとのこと。

 

現実には多くの仕事はテニスとアートの間に位置しますが、仕事の内容によってパフォーマンスをどれだけ定量的に測定できるかの程度は変わってきます。

 

私が人事になって最初に気づいたのは、管理部門のようなパフォーマンスが測定しづらい職種の場合、パフォーマンスはある程度あればよくて、その先はむしろ上司との関係性とか同僚の評判とかの方が評価に影響することだったのです。

 

パフォーマンスを測定しやすい職種・しづらい職種

一般的な企業におけるホワイトカラー系の職種は以下の4つに分類できます。

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この中でもテニスのようにパフォーマンスを測定しやすいのは、売上という明確な基準があるフロントオフィスの職種です。

逆に経理や総務といったバックオフィスはより絵画に近く、パフォーマンスを測定しにくい分野です。ミドルオフィスはその中間に位置します。

 

したがってフロントオフィスは自分の実力で勝負したいタイプが向いています。多少上司に嫌われようが、問答模様の数字を出せば評価されるのが営業の世界です。

 

また数字を出すという王道の戦略は、仕事に集中していれば評価も得られます。だから能力が高い人にとっては一番楽な道なのです。

このことは下記の記事でも詳しく説明しました。

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一方でバックオフィスのようにパフォーマンスを測定しづらい職種の場合、その人を評価する人(評価者)の見方は周りの意見に大きく左右されます。これをバラバシ教授は「あなたの判断は、あなたが属する社会の考えを参考にする(*)」と表現しています。面白い表現ですね。

 

こんな風に実はバックオフィス職種のような定量的なパフォーマンス測定がしづらい仕事の場合、仕事を頑張ったからといって評価されるとは限らない。

 

それよりも上司の飲みに付き合うとかゴマすりを頑張る方がよっぽど評価されてしまったりする面があります。

 

お世辞が勤務評価に強力な効果をもたらすことをしめす研究結果もあります。たとえばカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・チャットマン教授の調査によれば、お世辞が逆効果になる限界点を探ろうとしたものの、そのような限界点は見つからなかったそうです(**)。

 

理不尽ですがそういうものなのです。 

イノベーション職種の被評価戦略

ちなみにプログラマー・デザイナーなどのイノベーション職種の場合は少し込み入っていて、結構評価の軸が会社ごとにバラバラなんですね。

 

ただし私のいろいろな会社の評価制度を見てきた経験でいえば、ある程度予想するための因子もあります。具体的には、以下の2つです。

①業種…製品のライフサイクルの長短
ライフサイクル長い:
定性評価重視(測定できない)
ライフサイクル短い:定量評価重視(測定できる)

 ②社風…チームワーク志向の強弱
チームワーク志向強い:定性評価重視(測定できない)
チームワーク志向弱い:定量評価重視(測定できる)

 

たとえば化学のようなライフサイクルが長い業種で、チームワーク重視の会社であれば定性評価の度合いが強くなる傾向にあり、定性評価重視であることが予想できます。

逆にIT・ソフトウェアのようなライフサイクルが短い業種で、個人主義的な会社であれば定量評価の度合いが強くなります。


被評価戦略策定の3ステップ

ということでここまでの話を踏まえて、自分の仕事における被評価戦略を策定するためのステップを紹介します。

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Step1:まずは自分の今の仕事のパフォーマンスが、どれだけ測定できるものなのかを分析しましょう。

Step2:つづいて、評価を上げるための最適な行動を定義しましょう。実はそれは仕事のパフォーマンスアップだけではないかもしれません。

Step3:最後にその最適な行動が自分にマッチしているか、自分の望むものなのかを検討しましょう。もしマッチしない場合の指針は以下の通りです。

【20代】20代でまだ第二新卒マーケットにアクセスできるなら職種転換を考えましょう。
【30代以上】すでに30代以上で未経験職種への転職が難しい場合、なるべく自分の望むような評価体系をとっている業界・会社を探しましょう。

たとえば営業職でも不動産や保険といったインセンティブ割合の高い業界もあれば、もっとプロセス重視の業界もあります。またこのあたりは会社ごとの違いも大きいです。どういう条件なら高評価を得られるのかを考え、その条件を満たす場に身を移すということです。

 

優先的選択を活用するー大事なのはスタートダッシュ

パフォーマンスの測定が難しい場合、「高い評価に値する」とみなされている人はパフォーマンスに関係なくますます高い評価を与えられる傾向にあります。これを優先的選択といいます。

たとえばラーメン屋が2件並んでいて、片方に客が入っていて片方がガラガラだったとき、後からきたお客は客が入ってる方を選びがちです。

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この優先的選択が働くがために、パフォーマンスの測定が難しい領域では早めに高い評価を獲得し、「ハイパフォーマーのサークル」に入ってしまうことが大事です。

そうするとある程度普通に働いているだけで良い仕事をしているとみなさるようになるわけです。だからスタートダッシュがキモになります。

 

逆に何かの事情によってスタートでコケてしまった場合、それを取り戻すのが難しい面があります。こういう時は思い切って短期でも転職してしまう方がうまくいくことがあります。

 

一方で営業なんかのパフォーマンスが測定しやすい領域の場合、多少スタートがダメでも数字を出せばちゃんと評価がついてきますから、ある程度粘って仕事する方がいいことがあります。こんな風に、被評価の仕組みというのはその会社にどれくらいしがみつくかという、退職の判断にも関わるわけですね。

 

というわけで被評価の戦略でした。ご参考になれば幸いです。

 

注釈 

*アルバート=ラズロ・バラバシ (著), 江口 泰子 (翻訳) 「ザ・フォーミュラ: 科学が解き明かした『成功の普遍的法則』(光文社)」より抜粋。
**エリック・バーカー (著), 橘玲 (監修, 翻訳), 竹中てる実 (翻訳)「残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する」(飛鳥新社)、No.731/6312より。

出世を気にしない人ほど社内評価を気にすべき理由

今回・次回と、社内評価について取り上げたいと思います。

 

かつては評価=出世だった

なぜ評価が大事なのでしょうか?

 

伝統的な日本的経営での人事の仕組みをここでは仮に日本的人事とよびましょう。その特徴はたとえば以下のようなものです。

  • 長期雇用&強い解雇規制
  • 長期雇用とひきかえに会社側が人事権を握る
  • 従業員は職種選択も勤務地もすべて会社の命令に従う

(ほかにもあります)

 

ここでは従業員の「こんな職種・仕事に就きたい」「ここで働きたい」といった主体的な希望は頻繁に無視されます。

すると私たち従業員に与えられた社内のキャリア形成の選択肢は2択しかありません。

1 仕事をがんばって出世する
2 仕事をがんばらず出世をあきらめる

そして評価とはこの選択肢1をとる際に必要なものであっで、2の人には不要でした。

ところがこの状況が変わってきています。評価を高めることは、出世を望まない人にとっても大事になってきているのです。


日本的人事はそろそろ限界?

昨今は企業が権限をもって人事異動させる、日本的経営が制度疲労をおこしている感じがああります。

 

それを改めて感じたのが最近話題になったこの記事です。
 

僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか|髙木 一史|note

日本を代表する超一流企業であるトヨタ。そのトヨタを辞める理由として、この方が挙げられている理由のひとつが、

自分の人生やキャリアについて自分に決定権がない

ということでした。

 

日本的人事が限界にきているのは考えてみれば当たり前の話です。共働きがスタンダードになってきている昨今、夫婦とも転勤有り総合職でどうやって夫婦生活を成り立たせればよいのか。

 

もちろん会社側が配慮してくれるケースもありますが、やはり夫婦どちらかが涙を飲んで仕事を辞めなければならないケースが多い。

 

また転職が当たり前になる中で、総合職として明確な専門性をつけづらくなるのもつらい。

 

こういう状況のなかで、社内公募制度を取り入れたり、ジョブ型雇用に移行する会社が徐々に目立つようになってきています。

またコロナによる在宅勤務の広がりもジョブ型の移行を後押ししそうです。

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その会社でのキャリアはもはや二択ではない

このように、従業員側にキャリアの決定権が移っていったり、社員側も自分の希望を主張できるようになっていくと、会社内でのキャリア形成はもはや出世を目指すかどうか、という二択ではなくなってきます。

  • 何の仕事をするのか
  • どこでだれと働くのか
  • 週に何時間どらくらい働くのか
  • 最適なワークとライフのバランスをどう定めるのか

みたいな多様な選択肢が生まれてくる。その際に大事になるのが評価です。

 

当たり前ですが、多様な選択肢のなかには自分の希望と会社の希望が折り合わない部分もでてきます。

<イメージ図>

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たとえば上記イメージ図では両者が「勤務地」「給料」の2点しか折り合っていません。

 

ここで社内評価が高ければ、会社が自分の希望になるべく合わせようとしてくれる。

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この関係は、転職における市場価値(マーケットバリュー)のもつ意味合いと同じです。

キャリア形成の基本戦略、働きたくない人ほどマーケットバリューを高めるべき理由 - キャリアについてのよしなし

 

評価が高ければ高いほど自分の希望が通りやすい、自由度の高いキャリアが実現できます。つまり評価というのは社内における市場価値を代替するものと考えることができます。

 

出世したい人にとって評価の重要性が低下する現実

逆に出世したい派の人にとって、社内評価を高めることの相対的な意義は低下しているように思います。

 

なにせ少子高齢化で上が詰まっている会社が多いですので、ちょっとやそっと評価されたところでなかなかポストにつけない。

 

すると出世派にとっては、出世=より上位の肩書きを得ることの実現のためにはむしろ転職で上が詰まってない会社を探すことの方が大事になります。

 

話が脱線しましたが、とにかく上述したように社内で良い評価を得るというのは出世志向の有無に関係なく、さまざまな人にとって非常に大切なことなんですね。

ということで次回は最適な出世の戦略について書いていきたいと思います。

 

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