前回は幸福度の高いキャリアを実現するために「自由度の高いキャリアを目指そう」という話をしました。
それを踏まえて今回は紹介した「自由度の高いキャリア」を形成していくための超大枠となる基本的な戦略の枠組みをお話ししていきます。
これは私が人事採用マネージャーとして・元エージェントとしてたくさんの人のキャリアを見てきた中で、上手にキャリア形成している人に共通する動き方のパターンを抽出したもので、図にするとこんな感じです。
①マーケットの選択
まず最初に労働市場を生き抜くいち個人として、これから参入するマーケットを選択する必要があります。
よく使われる「転職市場が活況のため〜」といった文言を見ていると、あたかも世の中に巨大な単一の転職市場があり、そのどこをとっても活況になっているような気がしてきますが、もちろん実際はそうではありません。
たとえばリーマンショックの時期などは多くの職種が壊滅的な状況でしたが、一方で未経験MRの採用は活発に行われていました。
要はマーケットのどこをどう切り分けるか、そして切り分けたマーケットのどこに入っていくかがとても大事なのです。
こういう勝負する土俵の選択というのは市場価値を高めるためのコツコツとした努力よりよほど重要です。
たとえば私の友人に弁護士がいるのですが、彼によると弁護士事務所の経営を左右するのはまず第一に立地なんだそうです。近くに競合する弁護士事務所があるか、十分な顧客がいるかといった、商圏(マーケット)の選択が決定的に重要で、弁護士としてのウデはその次なのだそうです。
それと同じで、誤った土俵で努力を積み重ねるより、まずは勝負する土俵を最適化することの方がよほど重要です。
そこで、
- ジョブマーケットを適切に区分(セグメンテーション)するための知識を知り、
- その中で適切なマーケットを選ぶ
ということが必要で、それがこの①のステップにあたります。詳しくは以下のエントリーをご覧ください。
②参加する会社・職場の選択
続いてどの会社・職場に参加するか(あるいは現職にとどまるか)を判断します。
当然ですが個別企業や職場の選択は収入・価値観との合致度、いずれを高めるにも大きな影響をもたらします。
このブログではおいおい「どういった判断基準でえらぶべきか」ということをケーススタディで取り上げていく予定です。
③効果的なバリュー・プロポジション
言い換えれば応募と自己プレゼンの戦略です。
マーケティング用語で、顧客に対するバリューの提示をバリュー・プロポジションと呼びます。
就職・転職においても応募する会社・今あなたがいる会社に対して、あなたのバリューを適切に提示する必要があります。
特に就職・転職の場合、レジュメや面接といった定型プロセスを通じて自分のバリューを効果的に伝える方法はある程度固まっています。転職が当たり前な社会で暮らすアメリカ人なんかはこのあたり実にうまくやります。
しかし私の感覚ですが、特に転職時に8割がたの日本人は自分の市場価値をうまく伝えられていません。
日本では2000年代半ばの第二新卒ブームで転職が一般化してからまだ10年少ししか経っておらず、市場価値を伝えるスキルに長けた人が少なく、このスキルを教えられる人も少ないからです。
そこでここを一工夫することでかなり優位に立つことができます。
④マーケットバリュー(人材市場価値)の向上
最後にあなたのいるマーケットにおける、あなた自身の市場価値を高める必要があります。
ここで大事なのは、選んだ土俵によって適切な市場価値の高め方が異なるということです。個別のマーケットの中で最適化した市場価値向上戦略があるので、それを知る必要があります。
たとえば以下の記事では市場価値を高めるための基本的な考え方である【特化と拡張】について解説しています。
特化と拡張の最適化:市場価値を高めるための、最大多数の最適戦略
もう一点大事なことは、企業にはあなたの市場価値向上を阻害する構造的な問題があります。そこでこの構造自体を理解して、適切に対処していくことが市場価値向上には必須です。
このように基本的にはこの②〜④のサイクルをまわしながら、必要に応じて①(マーケットの選択)に戻る。
上手にキャリア形成している人はこのサイクルを意識的に回しているのです。
適切なキャリア形成戦略を実行するとどうなるか
前回のエントリーで「収入×価値観との合致度」の2軸を共に実現しやすい、自由度の高いキャリアを目指そうという話をしました。
その際、適切な戦略をとることで、この「年収×価値観との合致度」の座標軸上で右上に位置付けることが容易になります。
まず適切な「①マーケットの選択」と「②参加する個別の企業・職場の選択」は、上の座標のあなたの位置どりを右上に押し上げることができます。
たとえば①マーケットの選択をするとき、高年収市場に参入すれば簡単にヨコ軸の右方向(より年収高い)に移動できます。
また②個別の企業選択をするとき、もしあなたがワークライフバランスを大事にしたいなら効率性重視の社風を持つ企業で働ければタテ軸の上方向に動ける可能性が高まります。
いわばタテ軸とヨコ軸それぞれに基礎点のボーナスがつくような感じです。
また「③適切なバリュー・プロポジション」と「④マーケットバリューの向上」は座標上の機動力をもたらします。
高いマーケットバリューをもち、それを上手に売り込める能力を持てば多くの会社から必要とされます。結果、社内での異動にしても社外への転職にしても自分の希望・要望を通しやすくなります。
つまりこの座標上で自由に動けるようになります。
この機動力は座標の右上に進みたい時にももちろん有用ですが、それだけではありません。
前回のエントリーで書いたように、ライフステージによってはしばしば「収入(上の図のヨコ軸)」と「価値観との合致度(上の図のタテ軸)」がトレードオフ、つまり一方を重視するともう一方が損なわれる関係になることがあります。
たとえば以下の例を考えてみます。
『今は年収は良いのだが就業時間が長い環境です。最近子供が生まれたので就業時間を短くしたいのですがが、今の職場では働いた時間ベースで評価されるため子供に時間をさこうとすると年収ダウンしてしまいます・・・ 』
こういう時は収入と「就業時間を短く!」という価値観との間で適切なバランスをとる必要があるのですが、ここでマーケットバリューが低いとこうなります。
一方マーケットバリューが高いと、より上方に動けるようになる。
例えば「新しいスタッフを雇って残業を減らし有給をとりやすくしてください!それが無理なら辞めます!」といった要望が通ったりします。
こんな風に、逆説的ですが本来働きたくない人ほどマーケットバリューを高めておくべきなのです。
年収にこだわりがなくてもマーケットバリューを高めることが重要なのはここに理由があります。
ということで、ここまでの話をまとめると以下の図のようになります。
今後このサイトでは時々寄り道しつつ、この①〜④について様々な戦略やテクニックを紹介していく予定です。