会社員の場合、当たり前ですがどう評価されるかというのは大事です。そして、評価されるための戦略は職種ごとに違います。今回はこの、職種ごとに最適化された被評価戦略について解説したいと思います。
(評価を気にしないというのも一つの価値観なので、それはぜんぜん否定しないのですが、今回はいったん脇においておきます)
そもそも評価ってなんでしょう
評価とはなんでしょうか?
これは経験・スキルとともに、社内における市場価値(マーケットバリュー)のもとになるものと考えることができます。
下記エントリーで説明したように、高い評価はさまざま面でキャリアの自由度を高めてくれます。
社内で高評価を得られれば、残業せずにさっさと帰っても上司に睨まれずらくなります。異動の希望も通りやすくなります。
評価=昇進・昇格に必要なものというイメージを持っている方が多いのですが、むしろ高い社内評価の本当の効用は「選択肢を広く持てるようになること」です。だからキャリア形成の戦略を考える上で評価は避けて通ることができません。
被評価の戦略とは
このサイトで解説しているキャリア形成のセオリーのうち特に大事なのが「土俵選び」です。
選んだ土俵(職種×業界×土地)によって最適なキャリア戦略は異なるため、第二新卒として職種変更が可能な上限年齢=28歳くらいまでに自分にあった土俵を選ぶことが大事という考え方で、これについては下記のエントリーで詳しく解説しています。
被評価の戦略においてもベースになるのが土俵の違いです。特に職種が影響します。
私もいちど、この違いに直面したことがあります。私は若いころに人材紹介のエージェントから人事に転職しました。そのときエージェント(営業職)と人事では評価を得るためのポイントが違うことに気づきました。
人事には人事に最適な、「被」評価の戦略がある。実はこれはある程度科学的に説明されています。
科学的に証明された成功のフォーミュラ
同じようにすごい成果をあげた人・同じようにすごいパフォーマンスを発揮する人の中に、それが成功に結びつく人とそうではない人がいる。
実力があるのに不遇のミュージシャン、
業績はいいはずなのに出世しない同僚など、
こういう例は枚挙にいとまがありません。
では何が成否を分けるのか?この謎について研究したのが米ノースイースタン大学教授で、著名な作家でもあるアルバート=ラズロ・バラバシ教授です。
彼は「何が成功をもたらすか」についてネットワークの観点から研究を行い、その結果いくつかの法則を発見しました。
その法則には色々あるのですが、特に「被評価の戦略」において重要なセオリーは以下の2つに集約されます。
セオリー1:パフォーマンスを明確に測定できるときは、パフォーマンスが成功をもたらす。
セオリー2:パフォーマンスが測定できないときは、ネットワークが成功を促す。
パフォーマンスが測定できる分野とは、たとえばテニスです。
テニスでは大会成績やランキングという明確なパフォーマンス測定の基準があり、こういう分野ではパフォーマンスがそのまま成功(年収)を左右します。
逆にパフォーマンスを明確に測定できない分野とは、たとえば絵画です。
絵画のような分野では、パフォーマンスが上がるにつれてパフォーマンス自体が成功の決定的な要因ではなくなるのです。
どういうことかというと 1流の絵画と素人の絵画の区別はつくけど、1流と1.5流の区別はつけづらいため、もっと他の要素が成功のカギになります。つまり他の人が良いと言っているかとか、見た目が1流っぽく見えるかと、あるいは1流の人と繋がりがあるか、などの要素です。
実際に上記の研究によれば、成功したアーティストがキャリアの早い段階で有力な美術館・ギャラリーとのコネクションを築いていたとのこと。
現実には多くの仕事はテニスとアートの間に位置しますが、仕事の内容によってパフォーマンスをどれだけ定量的に測定できるかの程度は変わってきます。
私が人事になって最初に気づいたのは、管理部門のようなパフォーマンスが測定しづらい職種の場合、パフォーマンスはある程度あればよくて、その先はむしろ上司との関係性とか同僚の評判とかの方が評価に影響することだったのです。
パフォーマンスを測定しやすい職種・しづらい職種
一般的な企業におけるホワイトカラー系の職種は以下の4つに分類できます。
この中でもテニスのようにパフォーマンスを測定しやすいのは、売上という明確な基準があるフロントオフィスの職種です。
逆に経理や総務といったバックオフィスはより絵画に近く、パフォーマンスを測定しにくい分野です。ミドルオフィスはその中間に位置します。
したがってフロントオフィスは自分の実力で勝負したいタイプが向いています。多少上司に嫌われようが、問答模様の数字を出せば評価されるのが営業の世界です。
また数字を出すという王道の戦略は、仕事に集中していれば評価も得られます。だから能力が高い人にとっては一番楽な道なのです。
このことは下記の記事でも詳しく説明しました。
一方でバックオフィスのようにパフォーマンスを測定しづらい職種の場合、その人を評価する人(評価者)の見方は周りの意見に大きく左右されます。これをバラバシ教授は「あなたの判断は、あなたが属する社会の考えを参考にする(*)」と表現しています。面白い表現ですね。
こんな風に実はバックオフィス職種のような定量的なパフォーマンス測定がしづらい仕事の場合、仕事を頑張ったからといって評価されるとは限らない。
それよりも上司の飲みに付き合うとかゴマすりを頑張る方がよっぽど評価されてしまったりする面があります。
お世辞が勤務評価に強力な効果をもたらすことをしめす研究結果もあります。たとえばカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・チャットマン教授の調査によれば、お世辞が逆効果になる限界点を探ろうとしたものの、そのような限界点は見つからなかったそうです(**)。
理不尽ですがそういうものなのです。
イノベーション職種の被評価戦略
ちなみにプログラマー・デザイナーなどのイノベーション職種の場合は少し込み入っていて、結構評価の軸が会社ごとにバラバラなんですね。
ただし私のいろいろな会社の評価制度を見てきた経験でいえば、ある程度予想するための因子もあります。具体的には、以下の2つです。
①業種…製品のライフサイクルの長短
ライフサイクル長い:定性評価重視(測定できない)
ライフサイクル短い:定量評価重視(測定できる)
②社風…チームワーク志向の強弱
チームワーク志向強い:定性評価重視(測定できない)
チームワーク志向弱い:定量評価重視(測定できる)
たとえば化学のようなライフサイクルが長い業種で、チームワーク重視の会社であれば定性評価の度合いが強くなる傾向にあり、定性評価重視であることが予想できます。
逆にIT・ソフトウェアのようなライフサイクルが短い業種で、個人主義的な会社であれば定量評価の度合いが強くなります。
被評価戦略策定の3ステップ
ということでここまでの話を踏まえて、自分の仕事における被評価戦略を策定するためのステップを紹介します。
Step1:まずは自分の今の仕事のパフォーマンスが、どれだけ測定できるものなのかを分析しましょう。
Step2:つづいて、評価を上げるための最適な行動を定義しましょう。実はそれは仕事のパフォーマンスアップだけではないかもしれません。
Step3:最後にその最適な行動が自分にマッチしているか、自分の望むものなのかを検討しましょう。もしマッチしない場合の指針は以下の通りです。
【20代】20代でまだ第二新卒マーケットにアクセスできるなら職種転換を考えましょう。
【30代以上】すでに30代以上で未経験職種への転職が難しい場合、なるべく自分の望むような評価体系をとっている業界・会社を探しましょう。
たとえば営業職でも不動産や保険といったインセンティブ割合の高い業界もあれば、もっとプロセス重視の業界もあります。またこのあたりは会社ごとの違いも大きいです。どういう条件なら高評価を得られるのかを考え、その条件を満たす場に身を移すということです。
優先的選択を活用するー大事なのはスタートダッシュ
パフォーマンスの測定が難しい場合、「高い評価に値する」とみなされている人はパフォーマンスに関係なくますます高い評価を与えられる傾向にあります。これを優先的選択といいます。
たとえばラーメン屋が2件並んでいて、片方に客が入っていて片方がガラガラだったとき、後からきたお客は客が入ってる方を選びがちです。
この優先的選択が働くがために、パフォーマンスの測定が難しい領域では早めに高い評価を獲得し、「ハイパフォーマーのサークル」に入ってしまうことが大事です。
そうするとある程度普通に働いているだけで良い仕事をしているとみなさるようになるわけです。だからスタートダッシュがキモになります。
逆に何かの事情によってスタートでコケてしまった場合、それを取り戻すのが難しい面があります。こういう時は思い切って短期でも転職してしまう方がうまくいくことがあります。
一方で営業なんかのパフォーマンスが測定しやすい領域の場合、多少スタートがダメでも数字を出せばちゃんと評価がついてきますから、ある程度粘って仕事する方がいいことがあります。こんな風に、被評価の仕組みというのはその会社にどれくらいしがみつくかという、退職の判断にも関わるわけですね。
というわけで被評価の戦略でした。ご参考になれば幸いです。
注釈
*アルバート=ラズロ・バラバシ (著), 江口 泰子 (翻訳) 「ザ・フォーミュラ: 科学が解き明かした『成功の普遍的法則』(光文社)」より抜粋。
**エリック・バーカー (著), 橘玲 (監修, 翻訳), 竹中てる実 (翻訳)「残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する」(飛鳥新社)、No.731/6312より。