キャリアについてのよしなし

元エージェントの外資系採用マネージャーがキャリア形成のセオリーを解説します 毎週木曜を含む週1〜2回更新

幸福感を高めやすいキャリアとは?年収アップだけに傾倒してもダメな理由

エスです。今日はこういうお題について考えたいと思います。

 

そもそも今の時代において、幸福感を高める良いキャリアって何でしょうか?

 

よく転職系ブログでは年収アップにスポットライトがあたりがちです。年収はたしかに大事ですが、それだけでいいのでしょうか?

 

私の考えははっきりしています。年収アップだけを目指していても幸福にはなれません


今日はそんな話を解説していきたいと思います。 

 

【幸福感を高めやすいキャリアとは?】目次:

 

 

  年収アップだけを目指してもだめなわけ1)年収アップで幸せになろうとすると、少なくとも1000万あたりで限界が訪れる

まず、必ずしも「より多くの収入を稼ぐ=より多くの幸せ」ではありません。

 

年収500万の人にとって100万円の収入増は大きな意味がありますが、5000万の人にとっては100万のUpではもはや大した意味がなくなってきます。

 

これには2つの理由があります。①限界効用逓減の法則、②累進課税の効果 です。

 

【理由①】限界効用逓減の法則

一般に、収入が増えるにつれて、収入アップの幸せを増やす効果は弱まることが知られています。

 

これを経済学では「限界効用逓減の法則」と呼びます。

 

"財1単位の増加から得られる効用すなわち限界効用は,その財の保有量 (消費量) が増加するに伴って低下していくという法則。たとえば2台目の自動車から得る限界効用は1台目の自動車から得るものより小さい"

コトバンク

 

これを年収に当てはめると、「年収の増加から得られる効用(幸福感)は,年収自体が増加するに伴って低下していく」ということです。


ではどれくらい年収があれば年収Upに大きな意味がなくなってくるといえるのか?

 

良く言われるのは「700~800万円あたりがボーダーラインで、そこから先は年収と幸せはたいして相関しない」という言説ですね。

 

これは心理学者・行動経済学社のダニエル・カーネマンという人の研究がもとになっています。

 

When plotted against log income, life evaluation rises steadily. Emotional well-being also rises with log income, but there is no further progress beyond an annual income of ~$75,000

収入の対数に対してプロットすると、人生の自己評価は収入の対数に従って増加する。一方で幸福感は収入の対数によって高まるが、年収75,000ドル(日本円で800万円程度)を超えると増えなくなる。

 

※原文を当たりたい方はこちらをどうぞ

www.pnas.org  

まあこの「年収いくら以上だと幸せアップと関係なくなってくるか」は人それぞれでしょうが、私の実感としても次第に年収の伸びに幸福感の伸びが追い付かなくなってくるのは間違いないかなと思います。

 

【理由②】累進課税

また、日本の場合累進課税のため額面年収が増えるほど税金が上がっていき、手取りの伸びが悪くなります。

 

たとえば日本の場合所得900万を超えるといきなり所得税率が跳ね上がって23%から33%(!)になります。

 

この累進課税について具体例を持っていただくために、「お金のPDCA」という本から実例を挙げましょう。

 

"42歳男性(専業主婦の妻、高校生の息子、2歳の息子の4人家族)の場合、世帯年収が1000万円のときの手取り年収は約750万円です。同じ42歳男性の年収が600万円のときの手取り年収は約500万円。つまり年収が400万円増えても、実質250万円しか増えないのです。"

(稼ぐ人が実践している お金のPDCA (冨田 和成))

 

累進課税のパンチはなかなかに強力で、特に年収1000万以上になるとなかなかグロテスクな負担感になってきます。

https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/fv20180309/

 

こんなわけで、額面年収が1000万(手取り750万)あたりから税金は高いわ幸福感も伸び悩むわであまり年収アップが意味をなさなくなってくるんじゃないかなと思うわけです。

 

ちなみに私の経験だと1000万という数字は多くの日本人にとって象徴的な意味があるようです。「一本」みたいな言い方もありますが、この「一本」を超えると心理的な満足度を高く感じる人が多いんですよね。


配偶者からの尊敬も得られる数字、それが1000万あたりなのかなと思います。

 

1000万が1100万になったところでこの心理的満足感ってあまり変わらないと思うんですよね。

 

つまり、年収500万を600万にするためにしゃにむに頑張るのは理にかなっているが、1000万を1100万にするための努力は幸せにつながりにくい。

 

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年収の伸びが幸せ度に結びつきづらくなる?

 

年収アップだけを目指してもだめな理由2)一部の価値観は収入アップでは実現できない?

さらにより重要なのは、価値観が多様化している現在、収入アップで実現できない・しづらい価値観が増えてきているという点です。

 

まず当たり前ですが仕事から得られるものは収入(=金銭報酬)だけではありません。

 

コンサルティング会社のリンクアンドモチベーションは金銭以外の報酬を意味報酬と名付けたりしています。

 

意味報酬とは、

  • 貢献欲求(例:感謝の言葉)
  • 承認欲求(例:成果の表彰)
  • 親和欲求(例:良好なチームワーク)
  • 成長欲求(例:知識・技術の向上)

を満たすことで得られる心理的な報酬なんだそうです。

 

この例で言えばたとえば、
エンジニアとして最先端の技術にふれつづけたい!(成長欲求)
なんて価値観がありえるでしょう。

 

こうした意味報酬は「やりがい・働きがい」、「非金銭報酬」などと言い換えてもいいかなと思いますが、これらは仕事上の幸福感を大きく左右します。

 

また仕事は重視せず、プライベートの幸福を最優先とする人もいます(近年ではむしろマジョリティなんじゃないかな?とも思いますね)

 

たとえば、
業務時間をなるべく短くして子供と過ごす時間を大事にしたい!
なんて価値観がありえるでしょう。

 

このように、ほとんどの人が多かれ少なかれ金銭は重視する一方、「金銭以外に何を重視するか?」は価値観次第です。

 

こういった価値観を叶えるには、しばしばお金でどうにもならないものです。

 

だからこそ、年収アップだけを盲目的に追い続けていってもそれで幸せになれるかは大分怪しい、と私は考えます。で、問題はどんなキャリアなら幸福感アップにつなげやすいのか、です。

 

この点を考えるにあたり、逆に幸福感を上げづらい状況がどんなものなのか考えてみましょう。

 

それは収入と価値観との合致のトレードオフが発生する状況です。

 

幸福感を上げづらいのは「収入と価値観との合致度のトレードオフ」が発生するとき

今の時代、キャリアを通じた幸福感アップの障害になりやすいのが、この「価値観との合致度(自分の価値観に沿った幸せをどれだけ実現できるか)」と「収入アップ」のトレードオフ(一方を増やすともう片方が減る)です。

 

例を挙げましょう。

 

あなたが金銭以外に重視するのが「高級車に乗りたい」だとします。これは収入アップと同時に実現できます。

 

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次にたとえばあなたが業務時間を短くしてワークライフバランスをとりたい!という希望を持っていたとします。しかし上司が残業をする人を評価するタイプだと、この2つは両立しません。

 

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こうなるとキャリアを通じて幸せになるのが一気にハードモードになります。

同様に、たとえばあなたがエンジニアで、現場に近いところで最先端のスキルに触れていたいとします。しかし会社が役職に比例して年収が上がっていくタイプの人事制度をとってると、年収アップのためにはより技術から離れた管理業務の占める割合が増えていきますので、価値観と両立しません。


こうなると収入アップをしつつ幸福感を高めるのが難しくなっていきます。

 

幸福感を高めやすいのは自由度の高いキャリア

こうしたトレードオフを解決しやすくするのが、自由度の高いキャリアです。

 

まず、上で 「年収UP」はかならずしも幸福を保証しない」と書きましたが、そうはいっても価値観との合致度を損ねない限りより高い収入はおそらく年収1000万程度までは幸福を高める方向に働きます。

 

同様に価値観との合致度も幸福に寄与しますから、基本的にはこの「収入×価値観との合致度」という座標軸の右上の方を目指すことにします。

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なるべく右上をめざしたい

 

次に、極端な話「価値観との合致度」はゼロでも割り切って働くことはできますが、逆に収入は一定程度はないと生活が成り立ちません。

 

ここでキャリア形成上の選択肢に制約がうまれます。

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さらに先ほども書いたように現代の価値観の多様化によって、「収入と価値観との合致度のトレードオフ」が発生するケースが増えており、このことがしばしば右上方向に向かうのを難しくさせます。

 

高度経済成長期なんかは、「出世=良いこと」という価値観がマジョリティーだったわけで、出世すると通常は収入も上がりますから話はシンプル、「頑張って出世しよう!」で済みます。

 

そして多くの(男性)社会人は、課長くらいまでの出世なら実現できたわけです。

 

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高度経済成長期のイメージ

 

ところが今は上述したように価値観が多様化しています。

 

出世を目指さない人も多いし、大事にしたいことが結婚・出産・介護といったライフイベントによって変化することも多い。

 

すると座標のタテ軸の基準が変わってしまうわけです。

 

「子育てに集中したい」とか、「納得できるまで親の介護をしたい」といった希望が生まれてきたときや、管理職になってみたけど、やっぱり自分には現場が合っているので戻りたいときなどに、収入と価値観合致度の間でトレードオフ関係がうまれます。

 

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収入と価値観との合致度のトレードオフ

この場合、タテヨコ両軸のあいだでその都度うまくバランスをとっていく必要があるでしょう。

 

このように、

「収入×価値観との合致度」の座標上で、基本的には右上を目指しつつも、その時々に応じた最適な位置どりをしつづけられるキャリア

これが価値観の多様化した現代での目指すべきキャリアではないでしょうか。これを私は「自由度の高いキャリア」と呼んでいます。

 

この自由度の高いキャリアを実現するための戦略は次のエントリーで解説しますが、その前にすべきことは今の自分の価値観を明確にすることです。

 

最初のステップとしてすべきことは価値観の明確化

繰り返しになりますが金銭以外にキャリアで重視する価値観は人によるので、自由度の高いキャリアを実現する最初のステップはまず現時点での価値観(タテ軸)を明確にすることです。

 

実際にはひと言で価値観といっても多くの人は大事にしたい要素を複数かかえています。

 

なのでまずは

「年収以外で一番大事なこと・実現したいこと」

を決めましょう。優先順位1位を決めるということです。

 

私の経験上、ここが曖昧なために、転職・就職で意思決定して失敗する人が多すぎます。

 

ここが曖昧だとせっかく転職したのに本来解決すべき問題が解決されずに残ったりします。だから価値観の明確化が重要なのです。

 

参考に、過去私が面接やプライベートの相談で聞いてきた中で価値観の軸で、多かったものを挙げておきます。

  • 自分が興味・関心の強い領域の仕事をすること
  • 自己成長や能力開発
  • 良好な人間関係
  • 社会や組織への貢献を実感できること
  • 昇進やタイトル、社会的なステータス
  • 経済的な安定の実現
  • 企業カルチャーとのマッチ
  • 住みたい場所に住むこと
  • 適切な勤務時間・ワークライフバランス(子育て・介護・趣味などとの両立含む)


価値観が良く分からなかったらひとまずは年収UPを目指すのでもOK

ところで、特に若いうちはそもそも自分の価値観もはっきりしていないことが多々あります。

 

そういう人はどうしたらいいでしょうか。

 

実はこういうケースへの私のアドバイスは「差し当たり年収アップを目指しておいたらいいんじゃないでしょうか」とういうものです。


人事分野の有名な理論で「マズローの欲求段階説」というのがあります。

 

この説では、まずは衣食住や身の安全といったところがクリアされてはじめて愛情や承認、自己実現といった段階に進むとされます。

 

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引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/自己実現理論

 

衣食住や身の安全はお金で解決できますので、さしあたりはここをクリアしておきつつ、あとから「価値観との合致度」を高められるようにすると良いです。

 

ただししつこいようですが、年収アップではいずれ限界がきます。年収以外に自分が何を重視したいのか、まずは早めにそれを明確にすること。その上で将来スムーズに実現できるように準備しておくことです。

 

ということで次回はその基本戦略を解説していこうと思います。

 

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