キャリアについてのよしなし

MBAで元エージェントの外資系採用マネージャーがキャリア形成の戦略と定石を解説します 現在は不定期更新

不況期に就職・転職すべきか?~不況をやりすごす戦略~

今回は

(プロが教える年収アップ戦略④)未来のマーケットバリューに継続投資し、好況時に回収する

に関連して、「どうやって個人として不況をやり過ごすか」という戦略について解説します。

 

上記記事で書いたように、自己投資の成否は投資回収のタイミングに左右されます。

 

ところが、多くの人にとっての人生最大の投資回収イベントである就職は、そのタイミングを選びづらいという問題があります。せっかく十数年かけて教育投資してきたのに、就職活動のタイミングに不況がぶつかると良い就職先を見つけられないわけです。

 

また転職も同様で、不況による整理解雇、あるいは今は景気悪いのでできれば辞めたくないんだけど上司のパワハラがひどすぎてどうにも耐えがたい…みたいなときは景気が上向くのを待ってられません。

  

こういう、不況・不景気にどう対処するかが今回のテーマです。


不況・不景気はどれくらいの期間影響するのか

さてまず不況・不景気での就職がどれくらい年収に悪影響をもたらすかを見ておきましょう。「When 完璧なタイミングを科学する」(ダニエル•ピンク著)という本にアメリカでのケースが書いてあります。

 

「彼女は大きな発見をした。この男性たちのキャリアが始まった時期が、彼らの就職先やその後の経済状況を容赦なく決定したことがわかったのだ。不景気のときに労働市場に加わった者は、好景気のときに加わった者よりも、キャリアをスタートさせた当初、収入が少なかった。これはさほど驚くようなことではない。だが、スター卜当初の不利な立場はその後も変わらず、それから20年間も続いたのである。(中略)とくに活況を呈していた時期に卒業した場合と、とくに低迷をきわめていた時期に卒業した場合では、給与の差が20パーセント開くこともあった――これは卒業直後ではなく、彼らが30代後半になったときの格差である。好況時ではなく不況時の卒業により生じる総損失額は、インフレ率を調整すると、平均でおよそ10万ドルだった。タイミングがすべてではなかったが、総収入で6ケタの差を生み出していた。」

When 完璧なタイミングを科学する (赤文字は私)

 

なんと20年なので、新卒が40代に突入するまでの長期にわたり不利な立場に置かれます。エグい。

 

そう考えると、まず基本的な方向性として
「なるべく景気の良い時期に就職・転職し、景気の悪い時期は今の学校・会社でやりすごす」
ということを考える必要があります。

 

よく不景気になると大学院への進学が増えるといいますが、それは(それで不況を回避できる限りは)正しい行動なのです。

 

就活生の場合-回避しつつマーケットバリュー向上を狙う

ということで、財政的な余裕があれば進学・留学で時間を稼ぐことを検討しましょう。

下のグラフは2009年のリーマンショック前後の有効求人倍率ですが、これを見るとリーマンショックのピークが2009年で、そこから3年も経つと状況がかなり緩和されているのがわかります。

 

f:id:career-yoshinashi:20200101001027j:plain

 

ただし平成の就職氷河期のように10年以上ダラダラ不景気が続くと逃げ道がないのも事実です。とは言え100年に一度の世界的な不況と言われたリーマンでも3年経つとマシになる、というのは一つの教訓と言えるでしょう。

 

なので就職のことだけ考えたアドバイスになりますが、

もし自分が大学1〜2年生で、不況ゆえに先輩方が就活に苦労しているなら
迷わずサークルも習い事もやめてひたすらバイトに打ち込み、大学3年で1年休学してニュージーランドあたりに留学

するというのが有効です。あるいは両親に土下座してお金を出してもらいましょう。

安くあげたいならタイとかのアジア方面でもいいです。

 

単なる留年でも時間稼ぎにはなりますが、どうしても就活時の心象は若干悪くなりますし、1年先に伸ばしたくらいではまだあまり状況が良くなっていない可能性があります。

 

そのためにも1年をできれば有効活用して少し難易度の高い資格を取るとか、就活市場での武器を手にいれましょう。最低でも「何かやってました感」を出すのがポイントです。いわばモラトリアムのお化粧です。

 

うまくいけば肘を怪我した野球のピッチャーが、移植手術後の長いリハビリ期間に筋トレしまくることで復帰後に球速アップするのに似て、かえって将来的な年収アップを見込めるかもしれません。

 

不況を逆手にとってマーケットバリューを高める気概を持てさえすれば景気のディスアドバンテージを克服する可能性が出てきます。

 

社会人の場合-有効求人倍率を見て動く

社会人であれば転職タイミングは多少ならコントロールできます。なので上記のように留学したりするのもいいですが、あとはマーケット動向をみながらしばらく待ってみるというのが選択肢になります。

 

このサイトでも時々転職マーケットの展望をレポートしているので参考にしてください。

 

www.career-yoshinashi.com

 

問題は景気が悪化していくただ中にあっては、分かってても心理的にパニックになってしまうことです。

 

長年多くの人の転職の意思決定を見てきましたが、本当に多くの人が周囲のムードに引っ張られるように会社をやめてしまったり、焦って転職を決めてしまったりといった判断をしがちなのです。(私も一回それで失敗しました)

f:id:career-yoshinashi:20190720185324p:plain

こういうことを避ける方法はないのでしょうか?

 

個人的におすすめなのはベタですが、先ほど引用した厚労省の有効求人倍率を見ることです。

これで客観的に今のマーケット感覚を把握できます。

もっと産業別なんかの細かいデータを見るとなおいいですが、ざっくりした傾向をみるだけならこれで十分ですね。

 

ずっと採用に関わっててますが、感覚的にいうと倍率が0.8を切るとかなり買い手市場(企業側有利)なマーケットです。 

f:id:career-yoshinashi:20201122183955p:plain

ちなみに2000年以降、0.8倍を下回った年は2003年までの就職氷河期と、2009〜2011のリーマンショック後の3年間です。

こういう状況ではいったん思考停止で転職しないと割り切って待つのも手かと思います。

 

人脈づくり、いるのかいらないのか、採用Mgr.としての結論おしえます

先日20代の知人からこんな相談を受けました。

 

「会社の偉い人に『結局ビジネスで成果を出していこうと思ったら、最後にモノを言うのは人脈。絶対今から人脈作りをしておくべき』というアドバイスをうけて、いま色々な異業種交流会に顔を出して名刺交換しています。

でもこれが将来どう役にたつのかいまいちピンときません。人脈づくりって実際重要なんですか?

 

人脈づくりの重要性は色々なところで語られていますが、実際どの程度重要なのでしょうか?

 

この点は意識しておくと自分のマーケットバリューに結構効いてきます。

 

重要な職種とそうでもない職種がある

元エージェント・現採用マネージャーとしての経験に基づいて先に答えを書いてしまうと、人脈がいるかいらないかは職種によります。

特に人脈が重要なのは、

  • 営業・接客・コンサルタント等の直接顧客と接する職種
  • プログラマーや研究者、デザイナーなどイノベーションや発明に関する職種

の2つです。それ以外はさほど重要ではありません。

 

この人脈が重要な2つの職種カテゴリーについては以下で詳しく説明しています。

 

あとの職種は人脈はそんなにいらないです。ほとんどなくても十分食べていけますし、異業種交流会に出る必要もないです。

 

まずフロントオフィス職種(営業等)の場合、単純に人脈が顧客を連れてきてくれますので重要です。

 

たとえば私は以前していた人材紹介の仕事では、一度転職サポートをした求職者が友人知人を紹介してくれたりします。

なのでお客様を一度きりのお客様にせず定期的にコンタクトをとったりランチをしたりするような文字通りの人脈化することが有効です。

 

イノベーション職種(プログラマー等)の場合、同業で活躍する友人知人からの刺激を受け続けること自体が本人のスキルアップ、さらには収入面にもプラスの影響をもたらすことが知られています。

 

これはレベルの高い人に囲まれていることで生産性・創造性が高まるからです(これを人的資本の外部性といいます)。この知的刺激の有無はITエンジニアのような職種には特に重要です。

 

したがってイノベーション職種で仕事をするなら、勉強会の類に誘いがかかったり技術的なニュースをシェアしあえるような、いわば「フォーマルとカジュアルの中間」くらいの人脈を広く形成しておくことをおすすめします。

f:id:career-yoshinashi:20190728135211j:plain

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

 

人脈がなくても問題ない職種

逆に言えばその他のバックオフィス職種(経理・人事・総務など)やミドル職種(マーケティング・購買・生産管理など)では人脈はなくてもどうにでもなります。

 

以前私の会社にいたファイナンスディレクター(財務部長)は年収1000万円代後半でしたが、社交性が全然ない人で、人脈もほぼゼロでした。笑

 

にも関わらず外資企業のディレクターポジションにまで登りつめられたのは、単にバックオフィスでの出世を左右するのは人脈ではないからです。

 

以前にも書いたように、バックオフィス職種での評価を決定づけるのは「わかりやすいスキル・能力」や上司へのアピール、そして運です。

 

人脈が役立つ場面もあるでしょうが、それよりは上司の酒の相手をしながら愚痴を聞いてあげる方がよっぽど出世に効きます。なぜならバックオフィスの仕事というのは明確な数字で評価しづらいからです。

 

大事なのは社内人脈?

むしろ大事なのは社内人脈をつくっておいて、社内異動のための布石にすることです。

 

以前書いたように通常は28歳をこえると未経験転職は難しくなります。ただし例外があって、それが社内異動によるキャリアチェンジです。これは以前のエントリーで詳しくとりあげました。

 

 

 

社内異動の場合、時々びっくりするようなキャリアチェンジが実現するのですが多くの場合その場合受け入れ先の責任者と異動者本人の間に個人的なつながりがあるんですね。

 

またキャリアが行き詰まった時に、しばしば少し異なる方向性に「キャリアを振る」ことで打開できることがあります。これは特にバックオフィス系の職種で有効です。なぜなら上の方で引用した記事で書いたように、成果を定量評価しづらいため、出世・昇進・年収アップに運と上司からの評価が必須だからです。

 

たとえば人事の研修担当をしていてなかなか評価がついて来ない時に、人事制度のチームのマネージャーに引き抜いてもらう、なんてことができます。

 

普段から社内で幅広く人脈形成しておくと、こういった「キャリアを振る」チャンスを得られやすくなるで結構役立ちます。

 

ということでまとめると、フロント職種やイノベーション職種なら積極的に人脈を作りましょう。

バックオフィス、ミドル職種ならなくても問題ないですがあるとマーケットバリュー(人材市場価値)を高めたりキャリアの展望を開く上で役に立つことがあります。

 

関連記事です。マーケットバリューを高めるための戦略について。

www.career-yoshinashi.com

本当に出世は必要ですか? - 職種ごとに異なる出世と年収の関係性

今回は年収アップのために本当に出世が必要かを考えてみます。結論から言うとこうです。


【もし年収アップをめざすなら】
・経理・人事のようなバックオフィス職種は出世が大事
・営業のようなフロントオフィス職種は出世しなくても方法あり

 

バックオフィス、フロントオフィスなどの考え方については下記に詳しく書いていますが、

ここでも上記記事をまとめておくと、ホワイトカラーの仕事は大きく分けて以下の4つに分かれます。

f:id:career-yoshinashi:20200413225357p:plain

この4つは向き不向きもキャリア形成の戦略も異なります。だから第二新卒として未経験職種にも応募できるうちに、自分にあった土俵を選ぶことが大事です。

肩書きと年収の関係

さて冒頭のお題にもどると、

肩書きが年収にどう影響するか以下のような傾向があります。

 

まず、経理とか人事、総務、法務といったバックオフィスとミドルオフィスの職種は基本的に肩書きの大小と年収が比例します。


これは下記の記事で説明しているようにバックオフィスの仕事はパフォーマンスを数字で測定しづらいからです。

すると責任範囲(つまりマネジメントする人数)の大小で給料を決めてしまう方が客観的で納得感を得られやすい。

それで肩書きが上がるほど年収も上がります。またこの方が給料を決める側もラクという理由もあります。

 

一方で営業・販売といったフロント職種の場合、売上などの数字でパフォーマンス測定しやすい。

だからそのパフォーマンスに基づいて報酬を払う=インセンティブ制が成り立ちます。インセンティブ重視の会社のトッププレーヤーは下手な管理職よりよほど稼いでいます。
 

なのでこの職種では無理にマネジメントを目指すよりプレーヤーでいる方が稼げたりします。

 

スーパープログラマーの報酬の難しさ

私が勝手にイノベーション職種と呼んでいる、

プログラマー
デザイナー
R&D(研究開発)

といった職種は、日本ではまだ報酬体系が確立されていないところがあります。実際よく研究者が発明から発生した収益の取り分をめぐって会社と喧嘩していますね。

biz-journal.jp


またIT業界ではスーパープログラマーやデータサイエンティスト等にかなりの高額報酬を提示する例が目立っており、必ずしも昇進と収入は比例しません。

 

そんなわけでここも無理矢理出世を目指すよりもプレイヤーでいることを評価してくれる会社に行く方が幸せなカテゴリーかなと思います。 

下手に出世して現場から離れると、最新技術などにはどうしても疎くなりますし、なにより自分でコーディングするという喜びは得られなくなりますから。

 

ということでまとめると、自分がどのカテゴリーの職種を選ぶかによって、出世と年収の関係も変わってきます。

そして職種カテゴリーは28歳まででないと変更が難しいので、自分がどのカテゴリーで生きていくか早めに決断しましょう。

キャリアについて20代のうちに決めるべき、たった2つのこと

良いキャリアをつくるためには、2つの軸で自分の【マーケット選択】をすることが決定的に大事です。これが年収・安定性・出世などあらゆることに影響をおよぼします。今回はこの【マーケット選択】について解説します。 

【目次】

20代が終わるまでに勝負する土俵を決める

以前のエントリーで、自由度の高いキャリアを実現しよう、という話をしました。

 

それにもつながる話なのですが、良いキャリア形成のために決定的に大事なのは20代が終わるまで(だいたい28歳まで)に適切な土俵=マーケットを選ぶことです。

 

ここは多くの人が間違えるところですが、しゃにむに自分の市場価値(マーケットバリュー)を上げるための努力をするより、まずは土俵選びが大事です。逆にいえばここが合ってれば大体うまくいきます。

 

そしてジョブマーケット(就職・転職市場)は以下のように区分することができます。 

職種×業界×土地(住む場所)

例を挙げてみましょう。

  • 法人営業 × 金融業界 × 首都圏
  • 経理 × 住宅業界 × 北海道

こんな感じです。

そして良いキャリア形成で特に大事なのは、職種業界土地の3要素のうち、職種土地(住む場所)28歳までに選んでしまうことなのです。

 

なぜ28歳までに職種を選択するべきなのか?

3要素のうち最も重要なのは職種です。ホワイトカラーの仕事の場合、世のほとんどの職種はキャリア形成の観点からは4つに分類することができます。

差し当たりここではその4つをフロントオフィス職種・ミドルオフィス職種・バックオフィス職種・イノベーション職種と呼ぶことにします。

(フロントとかミドルという言い方は金融業界の用語を借用しています。一般的な言い方でははなく、私が適当にそう呼んでるだけです)

f:id:career-yoshinashi:20201128134215p:plain
この4つ(Front、Middle、Back、Innovation=FMBI)の選択がキャリア形成において大事なのは、この4つのどれを選ぶかによって年収アップ・出世・マーケットバリュー向上などなど、すべて適切な戦略が変わってくるからです。求められる資質や性格も違います。カテゴリーによって安定性も違います。

 

だからこそ自分のキャリア上のゴールや自分の性格に応じて職種を選ぶ必要があるのです。

 

「28歳=第二新卒マーケットの年齢上限」までにFMBIを選択しよう

この職種選びをある程度自由にできる上限年齢がだいたい25〜28歳です(※1)。この年齢までならどのカテゴリーでも「未経験OKの求人」に応募したときの合格確率が高く4つのカテゴリーをまたいだ転職ができます。

こういう未経験OK求人による特殊なジョブマーケットが「新卒・第二新卒マーケット」です。

   

逆にいうと30代以降は基本的にFMBIをまたぐ転職はできません。

f:id:career-yoshinashi:20200413230605p:plain

経験がないと営業から経理には移れませんし、未経験ではプログラマーにはなれません。それでも大幅なキャリアチェンジを狙う場合、少し特殊な戦略が必要になります(下記関連記事)。 

 

 

繰り返しなんですが、FBMIはそれぞれ全然ちがいます。それぞれのカテゴリーに向いているタイプもバラバラですし、必要なキャリア戦略もちがいます。

 

だからこそ、第二新卒マーケットにアクセスできる間に、自分がFMBIのどこで勝負していくのかを見極め選択することが本当に大事です。このことはエージェントの間では常識なのですが一般にはあまり知られていません。

 

自分の向いているカテゴリーを知ろう

では自分に合ったカテゴリーを選べるようにFMBIそれぞれの特徴を、
①高年収型か安定型か
②適性
③評価の軸

の3つの観点からお話しします。

①高年収型か安定型か 

まず、色々例外はありますがざっくりいうとこの4つの職種は年収・安定性という軸において下記のような特徴があります。

f:id:career-yoshinashi:20200414124346p:plain

まず年収ですが、多くの会社は競争力の源泉となっている部門にお金を回します。結果、そういう部門は高給になりやすい。

 

FMBIのうち、企業の競争力の源泉になるのは基本的に商売をとってくるフロントオフィスの職種か、製品を生み出すイノベーション職種です。そのためこの2つは年収が高めになります。たとえば製薬メーカーで一番年収が高いのはだいたい研究開発の人たちです。サービス業で一番の高級取りは営業部長で、経理部長なんかはだいぶ劣ります。

 

ミドルオフィスの職種会社によって異なります。たとえばアマゾンのロジスティクス、P&Gのマーケティングといった、ミドルオフィスが競争力に直結している会社もあり、そういう会社だとミドルオフィスもかなり年収が高くなります。なので会社選びが大事です。

 

バックオフィスの職種は通常会社の競争力を大きく左右しません。会計処理が正しく行われているかは大事ですが、こうしたバックの仕事は直接商売をつくりません。そのためフロント職種やイノベーション職種と比べて社内で給与が低く設定されることが多くなります

 

一方で安定性ですが、これは業界をこえてツブシが効くかどうかに左右されます。あるいは「業界横断型か、特定業界特化型か」と言い換えることもできます。

 

バックオフィス職種業界横断型です。基本的に何歳になっても業界を超えた転職ができます。たとえば人事のプロは飲食業界でもIT業界でも活躍できるので、ある業界が傾いたとき他の業界に逃げ込むことができます。だから職種としては安定します。ミドルオフィスも基本的には業界横断型ですが、バックにくらべると業界経験が重視されます。たとえばアパレルの会社なら同業のアパレルでマーケティングをしてた人の方が採用されます。

 

一方でフロントオフィス(営業・販売など)は、キャリアの途中までは業界横断型ですが、だいたい35歳あたりから業界に特化する傾向にあります(※2)。したがって自社の業界が落ち込むと転職先が限られ苦しい展開になりやすい。たとえば半導体営業は高年収ですが景気変動が激しい業界なので、不況時にはちゃんとマーケットバリューをもっていないと食いっぱぐれます。

 

最後にイノベーション職種スタートからほぼ業界特化型です。たとえば「バイオの研究者」なら、ヘルスケア・ライフサイエンスに関連した企業や団体等で生涯働いていくことになります。したがって長期的に将来性のありそうな業界で働くことが大事ですし、また業界えらび次第で生涯年収に決定的な差がでるため、最初の選択が超重要です。

 

ここまでの話を図にするとこんな感じです。

f:id:career-yoshinashi:20190714113356p:plain

②適性

どんな人が向いているか(=適性)もFMBIによって大きくことなります。

モチベーション・やりがい面の適性

基本的に顧客に近いフロントオフィスや製品に直接携わるイノベーション職種はビジネスに直接携わっているという実感・やりがいを得られやすい面があります。たとえばときどき営業事務から営業に転職する方がいますが、このパターンは「もっと顧客から直接ありがとうと言われる仕事がいい」「もっと前線で活躍したい」といったモチベーションのことが多い。

 一方でミドルオフィスバックオフィスは直接顧客や製品に携わる機会が限られるため、そのやりがいはより間接的な「縁の下の力持ち」的なものになります。これは人によって向き・不向きがあるので注意が必要です。

 

コミュニケーション面の適性 

傾向として、顧客・マーケットに近づけば近づくほど社外・不特定多数とのコミュニケ―ションが発生します。バックオフィス・イノベーション職種は社内の特定の相手との仕事が中心です。これもどちらが良いとかではなく、向き不向きがでるポイント(かつやってみないと向き不向きがわからないポイント)です。

f:id:career-yoshinashi:20201105163955p:plain

③評価の軸

職種によって評価のポイントも違います。ここについては下記のエントリーにまとめました。 

④年収を高めるのに出世が必要かどうか 

職種によっては出世せずプレーヤーにとどまるほうが高い年収になることもあります。これについては下記エントリーにまとめました。

★★★

 

これまで見てきたように自分にあった職種選びをすることはとても大事なのです。にもかかわらず、職種選びには年齢による期限がついてしまっている。これを知らないでいるといつの間にか自分に向いてないマーケットで一生を過ごすことになってしまうのです。 

なぜ28歳までに住む場所を決めるべきなのか?

ということで28歳までに決めるべきポイントの一つとして職種選びを話してきましたが、もうひとつ決定的に大事なのが土地=住む場所の選択です。

 

下記のエントリーでも詳しく書いているように、住む場所の選択は年収に決定的に影響を与えます。

www.career-yoshinashi.com

 

一方、多くの人は結婚し配偶者を得たあとだと、さまざまな理由で土地を動きづらいことが多い。

ちょうど28歳〜34歳の間くらいで結婚する人が多いことを考えると、なるべく28歳くらいまでに住む場所の選択は済ませておくことが望ましいでしょう。 

 

まとめ

ということでまとめると、

  • 良いキャリア形成のために、おおむね28歳までに①職種と②住む土地を決めよう
  • 職種の選択は年収・安定性・やりがいといった様々な点で影響をおよぼす
  • 土地の選択へ年収への影響が大きい。一般的な適齢期までに土地の選択をすませよう

ということでした。

 

関連記事です。30代以降でもFMBIをまたぐ転職の実現の仕方について。

 

20代の間に職種や住む場所を変えることで、市場価値を高めることもできます。

www.career-yoshinashi.com

 

注釈

※1 ちなみにこの「未経験OK」の募集ですが、年齢制限は明記されていないことが多いです。法律でそうなってます。そうなってるんですけど、実際は日本では年齢による足切りが横行してしまっているのでだいたい28を超えると不合格になります。

※2 実際に転職サイトで検索すると「業界未経験OK」な営業職の募集がたくさん見つかると思いますが、これらはだいたい30代前半~中盤位までが実質的な上限です。それ以降は多くの場合業界経験が必要になります。

 

 

キャリア形成の基本戦略、働きたくない人ほどマーケットバリューを高めるべき理由

前回は幸福度の高いキャリアを実現するために「自由度の高いキャリアを目指そう」という話をしました。

www.career-yoshinashi.com


それを踏まえて今回は紹介した「自由度の高いキャリア」を形成していくための超大枠となる基本的な戦略の枠組みをお話ししていきます。

これは私が人事採用マネージャーとして・元エージェントとしてたくさんの人のキャリアを見てきた中で、上手にキャリア形成している人に共通する動き方のパターンを抽出したもので、図にするとこんな感じです。

 

f:id:career-yoshinashi:20200413220242p:plain 

①マーケットの選択

まず最初に労働市場を生き抜くいち個人として、これから参入するマーケットを選択する必要があります。


よく使われる「転職市場が活況のため〜」といった文言を見ていると、あたかも世の中に巨大な単一の転職市場があり、そのどこをとっても活況になっているような気がしてきますが、もちろん実際はそうではありません。

 

たとえばリーマンショックの時期などは多くの職種が壊滅的な状況でしたが、一方で未経験MRの採用は活発に行われていました。

 

要はマーケットのどこをどう切り分けるか、そして切り分けたマーケットのどこに入っていくかがとても大事なのです。

 

こういう勝負する土俵の選択というのは市場価値を高めるためのコツコツとした努力よりよほど重要です。

 

たとえば私の友人に弁護士がいるのですが、彼によると弁護士事務所の経営を左右するのはまず第一に立地なんだそうです。近くに競合する弁護士事務所があるか、十分な顧客がいるかといった、商圏(マーケット)の選択が決定的に重要で、弁護士としてのウデはその次なのだそうです。

 

それと同じで、誤った土俵で努力を積み重ねるより、まずは勝負する土俵を最適化することの方がよほど重要です。

 

そこで、

  • ジョブマーケットを適切に区分(セグメンテーション)するための知識を知り、
  • その中で適切なマーケットを選ぶ

ということが必要で、それがこの①のステップにあたります。詳しくは以下のエントリーをご覧ください。

 

②参加する会社・職場の選択

続いてどの会社・職場に参加するか(あるいは現職にとどまるか)を判断します。

当然ですが個別企業や職場の選択は収入・価値観との合致度、いずれを高めるにも大きな影響をもたらします。

このブログではおいおい「どういった判断基準でえらぶべきか」ということをケーススタディで取り上げていく予定です。

 

③効果的なバリュー・プロポジション

言い換えれば応募と自己プレゼンの戦略です。

マーケティング用語で、顧客に対するバリューの提示をバリュー・プロポジションと呼びます。

 

就職・転職においても応募する会社・今あなたがいる会社に対して、あなたのバリューを適切に提示する必要があります。

 

特に就職・転職の場合、レジュメや面接といった定型プロセスを通じて自分のバリューを効果的に伝える方法はある程度固まっています。転職が当たり前な社会で暮らすアメリカ人なんかはこのあたり実にうまくやります。

 

しかし私の感覚ですが、特に転職時に8割がたの日本人は自分の市場価値をうまく伝えられていません。

 

日本では2000年代半ばの第二新卒ブームで転職が一般化してからまだ10年少ししか経っておらず、市場価値を伝えるスキルに長けた人が少なく、このスキルを教えられる人も少ないからです。


そこでここを一工夫することでかなり優位に立つことができます。

 

④マーケットバリュー(人材市場価値)の向上

最後にあなたのいるマーケットにおける、あなた自身の市場価値を高める必要があります。

 

ここで大事なのは、選んだ土俵によって適切な市場価値の高め方が異なるということです。個別のマーケットの中で最適化した市場価値向上戦略があるので、それを知る必要があります。

 

たとえば以下の記事では市場価値を高めるための基本的な考え方である【特化と拡張】について解説しています。

特化と拡張の最適化:市場価値を高めるための、最大多数の最適戦略

 

もう一点大事なことは、企業にはあなたの市場価値向上を阻害する構造的な問題があります。そこでこの構造自体を理解して、適切に対処していくことが市場価値向上には必須です。

www.career-yoshinashi.com


このように基本的にはこの②〜④のサイクルをまわしながら、必要に応じて①(マーケットの選択)に戻る。

上手にキャリア形成している人はこのサイクルを意識的に回しているのです。

 

適切なキャリア形成戦略を実行するとどうなるか

前回のエントリーで「収入×価値観との合致度」の2軸を共に実現しやすい、自由度の高いキャリアを目指そうという話をしました。

f:id:career-yoshinashi:20190707175801p:plain

その際、適切な戦略をとることで、この「年収×価値観との合致度」の座標軸上で右上に位置付けることが容易になります。 

 

まず適切な「①マーケットの選択」と「②参加する個別の企業・職場の選択」は、上の座標のあなたの位置どりを右上に押し上げることができます。

 f:id:career-yoshinashi:20190709180758p:plain

たとえば①マーケットの選択をするとき、高年収市場に参入すれば簡単にヨコ軸の右方向(より年収高い)に移動できます。

 

また②個別の企業選択をするとき、もしあなたがワークライフバランスを大事にしたいなら効率性重視の社風を持つ企業で働ければタテ軸の上方向に動ける可能性が高まります。

 

いわばタテ軸とヨコ軸それぞれに基礎点のボーナスがつくような感じです。

 

また「③適切なバリュー・プロポジション」と「④マーケットバリューの向上」座標上の機動力をもたらします。

 

高いマーケットバリューをもち、それを上手に売り込める能力を持てば多くの会社から必要とされます。結果、社内での異動にしても社外への転職にしても自分の希望・要望を通しやすくなります。

  f:id:career-yoshinashi:20190709180822p:plain

つまりこの座標上で自由に動けるようになります。

 

この機動力は座標の右上に進みたい時にももちろん有用ですが、それだけではありません。

 

前回のエントリーで書いたように、ライフステージによってはしばしば「収入(上の図のヨコ軸)」と「価値観との合致度(上の図のタテ軸)」がトレードオフ、つまり一方を重視するともう一方が損なわれる関係になることがあります。

 

たとえば以下の例を考えてみます。

『今は年収は良いのだが就業時間が長い環境です。最近子供が生まれたので就業時間を短くしたいのですがが、今の職場では働いた時間ベースで評価されるため子供に時間をさこうとすると年収ダウンしてしまいます・・・ 』

f:id:career-yoshinashi:20191020131844p:plain

こういう時は収入と「就業時間を短く!」という価値観との間で適切なバランスをとる必要があるのですが、ここでマーケットバリューが低いとこうなります。

f:id:career-yoshinashi:20190709180925p:plain 

 

一方マーケットバリューが高いと、より上方に動けるようになる。

f:id:career-yoshinashi:20190709181005p:plain

例えば「新しいスタッフを雇って残業を減らし有給をとりやすくしてください!それが無理なら辞めます!」といった要望が通ったりします。

 

こんな風に、逆説的ですが本来働きたくない人ほどマーケットバリューを高めておくべきなのです。

 

年収にこだわりがなくてもマーケットバリューを高めることが重要なのはここに理由があります。

f:id:career-yoshinashi:20200413220521p:plain

ということで、ここまでの話をまとめると以下の図のようになります。

 


今後このサイトでは時々寄り道しつつ、この①〜④について様々な戦略やテクニックを紹介していく予定です。


 

幸福感を高めやすいキャリアとは?年収アップだけに傾倒してもダメな本当の理由

今の時代において、幸福感を高める良いキャリアって何でしょうか?

よく転職系ブログでは年収アップにスポットライトがあたりがちです。年収はたしかに大事ですが、それだけでいいのでしょうか?

今回はこういったお題について考えるヒントを提供したいと思います。

 

【幸福感を高めやすいキャリアとは?】目次:

 

 

  年収アップだけを目指してもだめなわけ1:年収アップで幸せになろうとすると、少なくとも1000万あたりで限界が訪れる

まず、必ずしも「より多くの収入を稼ぐ=より多くの幸せ」ではありません。

 

年収500万の人にとって100万円の収入増は大きな意味がありますが、5000万の人にとっては100万のUpではもはや大した意味がなくなってきます。

 

これには①限界効用逓減の法則、②累進課税の効果 という2つの理由があります。

 

【理由①】限界効用逓減の法則

一般に、収入が増えるにつれて、収入アップの幸せを増やす効果は弱まることが知られています。

 

これを経済学では「限界効用逓減の法則」と呼びます。

 

"財1単位の増加から得られる効用すなわち限界効用は,その財の保有量 (消費量) が増加するに伴って低下していくという法則。たとえば2台目の自動車から得る限界効用は1台目の自動車から得るものより小さい"

コトバンク

 

これを年収に当てはめると、「年収の増加から得られる効用(幸福感)は,年収自体が増加するに伴って低下していく」ということです。


ではどれくらい年収があれば年収Upに大きな意味がなくなってくるといえるのか?

 

良く言われるのは「700~800万円あたりがボーダーラインで、そこから先は年収と幸せはたいして相関しない」という言説ですね。

 

これは心理学者・行動経済学社のダニエル・カーネマンという人の研究がもとになっています。

 

When plotted against log income, life evaluation rises steadily. Emotional well-being also rises with log income, but there is no further progress beyond an annual income of ~$75,000

収入の対数に対してプロットすると、人生の自己評価は収入の対数に従って増加する。一方で幸福感は収入の対数によって高まるが、年収75,000ドル(日本円で800万円程度)を超えると増えなくなる。

 

※原文を当たりたい方はこちらをどうぞ

www.pnas.org  

まあこの「年収いくら以上だと幸せアップと関係なくなってくるか」は人それぞれでしょうが、私の実感としても次第に年収の伸びに幸福感の伸びが追い付かなくなってくるのは間違いないかなと思います。

 

【理由②】累進課税

また、日本の場合累進課税のため額面年収が増えるほど税金が上がっていき、手取りの伸びが悪くなります(年収1500万円から先はおおむね50%代前半で固定になりますが、年収1500万を超える人は極めて限られるためこの記事ではいったん無視します)。

 

たとえば日本の場合所得900万を超えるといきなり所得税率が跳ね上がって23%から33%(!)になります。

 

この累進課税について具体例を持っていただくために、「お金のPDCA」という本から実例を挙げましょう。

 

"42歳男性(専業主婦の妻、高校生の息子、2歳の息子の4人家族)の場合、世帯年収が1000万円のときの手取り年収は約750万円です。同じ42歳男性の年収が600万円のときの手取り年収は約500万円。つまり年収が400万円増えても、実質250万円しか増えないのです。"

(稼ぐ人が実践している お金のPDCA (冨田 和成))

 

累進課税のパンチはなかなかに強力で、特に年収1000万以上になるとなかなかグロテスクな負担感になってきます。

vdata.nikkei.com

 

こんなわけで、額面年収が1000万(手取り750万)あたりから、税金は高いわ幸福感も伸び悩むわであまり年収アップが意味をなさなくなってくるんじゃないかなと思うわけです。

 

ちなみに私の経験だと1000万という数字は多くの日本人にとって象徴的な意味があるようです。「一本」みたいな言い方もありますが、この「一本」を超えると心理的な満足度を高く感じる人が多いんですよね。


配偶者からの尊敬も得られる数字、それが1000万あたりなのかなと思います。

 

1000万が1100万になったところでこの心理的満足感ってあまり変わらないと思うんですよね。

 

つまり、年収500万を600万にするためにしゃにむに頑張るのは理にかなっているが、1000万を1100万にするための努力は幸せにつながりにくい。

 

f:id:career-yoshinashi:20190705194054p:plain

年収の伸びが幸せ度に結びつきづらくなる?

 

年収アップだけを目指してもだめな理由2)一部の価値観は収入アップでは実現できない?

さらにより重要なのは、価値観が多様化している現在、収入アップで実現できない・しづらい価値観が増えてきているという点です。

 

まず当たり前ですが仕事から得られるものは収入(=金銭報酬)だけではありません。

 

コンサルティング会社のリンクアンドモチベーションは金銭以外の報酬を意味報酬と名付けたりしています。

 

意味報酬とは、

  • 貢献欲求(例:感謝の言葉)
  • 承認欲求(例:成果の表彰)
  • 親和欲求(例:良好なチームワーク)
  • 成長欲求(例:知識・技術の向上)

を満たすことで得られる心理的な報酬なんだそうです。

 

この例で言えばたとえば、
エンジニアとして最先端の技術にふれつづけたい!(成長欲求)
なんて価値観がありえるでしょう。

 

こうした意味報酬は「やりがい・働きがい」、「非金銭報酬」などと言い換えてもいいかなと思いますが、これらは仕事上の幸福感を大きく左右します。

 

また仕事は重視せず、プライベートの幸福を最優先とする人もいます(近年ではむしろマジョリティなんじゃないかな?とも思いますね)

 

たとえば、
業務時間をなるべく短くして子供と過ごす時間を大事にしたい!
なんて価値観がありえるでしょう。

 

このように、ほとんどの人が多かれ少なかれ金銭は重視する一方、「金銭以外に何を重視するか?」は価値観次第です。

 

こういった価値観を叶えるには、しばしばお金でどうにもならないものです。

 

だからこそ、年収アップだけを盲目的に追い続けていってもそれで幸せになれるかは大分怪しい、と私は考えます。で、問題はどんなキャリアなら幸福感アップにつなげやすいのか、です。

 

この点を考えるにあたり、逆に幸福感を上げづらい状況がどんなものなのか考えてみましょう。

 

それは収入と価値観との合致のトレードオフが発生する状況です。

 

幸福感を上げづらいのは「収入と価値観との合致度のトレードオフ」が発生するとき

今の時代、キャリアを通じた幸福感アップの障害になりやすいのが、この「収入(アップ)と価値観との合致度(自分の価値観に沿った幸せをどれだけ実現できるか)」のあいだにトレードオフ(一方を増やすともう片方が減る)が発生するときです。

 

例を挙げましょう。

 

あなたが金銭以外に重視するのが「高級車に乗りたい」だとします。これは収入アップと同時に実現できます。

 

f:id:career-yoshinashi:20190707175410p:plain

 

次にたとえばあなたが業務時間を短くしてワークライフバランスをとりたい!という希望を持っていたとします。しかし上司が残業をする人を評価するタイプだと、この2つは両立しません。

 

f:id:career-yoshinashi:20190707175501p:plain

 

こうなるとキャリアを通じて幸せになるのが一気にハードモードになります。

同様に、たとえばあなたがエンジニアで、現場に近いところで最先端のスキルに触れていたいとします。しかし会社が役職に比例して年収が上がっていくタイプの人事制度をとってると、年収アップのためにはより技術から離れた管理業務の占める割合が増えていきますので、価値観と両立しません。


こうなると収入アップをしつつ幸福感を高めるのが難しくなっていきます。

 

幸福感を高めやすいのは自由度の高いキャリア

こうしたトレードオフを解決しやすくするのが、自由度の高いキャリアです。

 

まず、上で「 年収UPはかならずしも幸福を保証しない」と書きましたが、そうはいっても基本的にはより高い収入は(おそらく年収1000万程度までは)幸福を高める方向に働きます。

 

同様に価値観との合致度も幸福に寄与しますから、基本的にはこの「収入×価値観との合致度」という座標軸の右上の方を目指すことにします。

f:id:career-yoshinashi:20190707175914p:plain

なるべく右上をめざしたい

 

次に、極端な話「価値観との合致度」はゼロでも割り切って働くことはできますが、逆に収入は一定程度はないと生活が成り立ちません。

 

ここでキャリア形成上の選択肢に制約がうまれます。

f:id:career-yoshinashi:20190707175841p:plain

 

 

さらに先ほども書いたように現代の価値観の多様化によって、「収入と価値観との合致度のトレードオフ」が発生するケースが増えており、このことがしばしば右上方向に向かうのを難しくさせます。

 

高度経済成長期なんかは、「出世=良いこと」という価値観がマジョリティーだったわけで、出世すると通常は収入も上がりますから話はシンプル、「頑張って出世しよう!」で済みます。

 

そして多くの(男性)社会人は、課長くらいまでの出世なら実現できたわけです。

 

f:id:career-yoshinashi:20190707180314p:plain

高度経済成長期のイメージ

 

ところが今は上述したように価値観が多様化しています。

 

出世を目指さない人も多いし、大事にしたいことが結婚・出産・介護といったライフイベントによって変化することも多い。

 

すると座標のタテ軸の基準が変わってしまうわけです。

 

「子育てに集中したい」とか、「納得できるまで親の介護をしたい」といった希望が生まれてきたときや、管理職になってみたけど、やっぱり自分には現場が合っているので戻りたいときなどに、収入と価値観合致度の間でトレードオフ関係がうまれます。

 

f:id:career-yoshinashi:20190707180555p:plain

収入と価値観との合致度のトレードオフ

この場合、タテヨコ両軸のあいだでその都度うまくバランスをとっていく必要があるでしょう。

 

このように、

「収入×価値観との合致度」の座標上で、基本的には右上を目指しつつも、その時々に応じた最適な位置どりをしつづけられるキャリア

これが価値観の多様化した現代での目指すべきキャリアではないでしょうか。これを私は「自由度の高いキャリア」と呼んでいます。

 

この自由度の高いキャリアを実現するための戦略は次のエントリーで解説しますが、その前にすべきことは今の自分の価値観を明確にすることです。

www.career-yoshinashi.com

最初のステップとしてすべきことは価値観の明確化

繰り返しになりますが金銭以外にキャリアで重視する価値観は人によるので、自由度の高いキャリアを実現する最初のステップはまず現時点での価値観(タテ軸)を明確にすることです。

 

実際にはひと言で価値観といっても多くの人は大事にしたい要素を複数かかえています。

 

なのでまずは

「年収以外で一番大事なこと・実現したいこと」

を決めましょう。優先順位1位を決めるということです。実現したいことが2つ3つあってもいいですが、プライオリティーははっきりさせておくべきです。

 

私の経験上、ここが曖昧なために、転職・就職で意思決定して失敗する人が多すぎます。

 

ここが曖昧だとせっかく転職したのに本来解決すべき問題が解決されずに残ったりします。だから価値観の明確化が重要なのです。

 

参考に、過去私が面接やプライベートの相談で聞いてきた中で価値観の軸で、多かったものを挙げておきます。

  • 自分が興味・関心の強い領域の仕事をすること
  • 自己成長や能力開発
  • 良好な人間関係
  • 社会や組織への貢献を実感できること
  • 昇進やタイトル、社会的なステータス
  • 経済的な安定の実現
  • 企業の価値観やカルチャーとのマッチ
  • 住みたい場所に住むこと
  • 適切な勤務時間・ワークライフバランス(子育て・介護・趣味などとの両立含む)


価値観が良く分からなかったらひとまずは年収UPを目指すのでもOK

ところで、特に若いうちはそもそも自分の価値観もはっきりしていないことが多々あります。

 

そういう人はどうしたらいいでしょうか。

 

実はこういうケースへの私のアドバイスは「差し当たり年収アップを目指しておいたらいいんじゃないでしょうか」とういうものです。


まぁ古いっちゃ古いですが、人事分野の有名な理論で「マズローの欲求段階説」というのがあります。

 

この説では、まずは衣食住や身の安全といったところがクリアされてはじめて愛情や承認、自己実現といった段階に進むとされます。

 

f:id:career-yoshinashi:20190707181219p:plain

引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/自己実現理論

 

衣食住や身の安全はお金で解決できますので、さしあたりはここをクリアしておきつつ、あとから「価値観との合致度」を高められるようにすると良いです。自分が何を大事にしたいかは働きながら探し続けましょう。

 

ただししつこいようですが、年収アップではいずれ限界がきます。年収以外に自分が何を重視したいのか、まずは早めにそれを明確にすること。その上で将来スムーズに実現できるように準備しておくことです。

 

ということで次回はその基本戦略を解説していこうと思います。

 

キャリア形成のセオリーとは?就職・転職の悩みは解決できる

キャリア形成には広く有効な戦略や定石があります。これはそうしたセオリーを解説するためのサイトです。

 

戦略や定石を知ることで、就職や転職、異動といったイベントにつきものの不安を解消し、自信を持って意思決定することができます。

 

年収アップであれ仕事のやりがいであれ、満足度の高いキャリアを実現している人たちには一定のパターンがあります。

 

私は転職エージェントや外資系採用マネージャーとして、膨大な数の人の「キャリアについての意思決定」を見てきました。

 

その経験から「通常このケースだとこう動くのが良い」といった定石が分かります。これは経験のある転職エージェントや採用担当者であれば多くの人が知っているようなことです。ただそれらはあまり言語化されていません。

 

特に就職・転職・社内異動(*1)といったテーマについては、実はかなりはっきりしたセオリーがあります。

 

なぜか?それは就職・転職市場(ジョブマーケット)も価値と金銭が交換されているという意味で結局は市場(マーケット)の一種だからです。

 

そのため、

  • ジョブマーケット特有の市場特性を知る
  • その上で基本的なマーケティングのセオリーにのっとって動く
  • 能力開発のセオリーに基づいて、自らの商品価値(=マーケットバリュー)を高める

このステップを繰り返すことで、ジョブマーケットにおいて極めて優位に立つことができます。

 

 

このブログではこうしたキャリア形成のセオリーやジョブマーケットの知識を紹介します。

 

セオリーはキャリアについての不安・恐怖に立ち向かう武器になる

面接などでたくさんの人に「これまでどんなキャリアに関する意思決定をしてきたか」を聞いてきましたが、失敗事例の半分くらいはこんな感じです。

 

  • 景気後退で会社の業績悪化が目に見えている。でも転職はまだ早い気がするので見送った。(結果、不景気のど真ん中で転職活動をするハメになった)
  • 上司に海外子会社への異動を打診されたが自分にはまだ早いと思って断った。(今考えるとあの時チャレンジしておけばよかった)
  • 興味ある部署の社内公募が出ていたが、現部署を離れるのも怖い。そうこうしているうちに公募が終わってしまった。(あの時のような公募がでないか待ち続けて早数年) 

 

要は棚上げ型、あるいは「意思決定をしないという意思決定」による失敗です。

 

どうしてこういった行動パターンをとってしまうのか。近年注目を集める学問領域のひとつ、行動経済学によれば多くの人は「現状維持を過大評価しがち」「変化によるリスクを過度に見積もりがち」とされています。

 

こうした現状維持・リスク回避志向が多くの人の行動パターンを縛っており、結果的にキャリア上の失敗を招いています。

 

しかしこうした心理は、セオリーを知り変化による影響を予想できるようになることで改善できます。知識は人を変化に対して強くさせます。

 

f:id:career-yoshinashi:20190714122729p:plain

 

会社にいてもキャリアについてのノウハウは身につかない?

多くの場合日本の会社にいると、良くも悪くもキャリアについて考える必要があまりありません。ノウハウもたまりません。

 

なぜかというと、多くの企業では人事制度上、社員ひとりひとりのキャリアパスを会社主導で決めるしくみになっているからです。

 

日本では法律上簡単に解雇ができません。そこで、「不振のA事業部を閉鎖する」「人員余剰の間接部門を縮小する」といった時には、”総合職”の名のもとに会社命令で異動させる必要があります。

 

つまり会社側は人事権を手放せないわけです。

 

この前提があるために、日本では長らく

  • 会社が辞令を出し
  • 社員はそれに従う

という慣行が続いてきています。

 

(特に新卒採用時は社員の希望なんかロクにきかない会社が多いですね)

 

この仕組みに浸かっているいると、キャリアについて自律的に考えないクセがついてきます。あくまで仕組みの問題です。

 

結果、9割以上の人は戦略不在のまま漠然とキャリア形成してしまいます。これは本来怖いことです。

 

 

信頼できる相談相手もいないからこそ、知識をつける必要がある

さらに多くの人には、就職・転職といったトピックについて信頼できる相談相手がいません。

 

 

同僚相手には相談しづらいテーマですし、かといってプライベートの友人とは業界や置かれた状況が違いすぎて理解してもらえないものです。家族に至っては足を引っ張られるケースさえ散見されます。

 

 

また別エントリーでも書いていますが、転職エージェントも往往にして良い相談相手になってくれません。

 

www.career-yoshinashi.com

 

結局、キャリアは自分の持てる知識と知能を駆使し、自ら積み重ねるしかないものなのです。

 

 

このブログでは、私が採用マネージャーや転職エージェントとして見てきた数多の事例から抽出した、なるべく再現性の高いセオリーをお伝えします。

 

 

(*1)

「社内異動は採用市場関係ないのでは」と思うかもしれませんが、現在大企業や外資系企業では社内公募制度によって“社内転職マーケット”とでも呼ぶべき状況が生まれつつあり、この傾向は拡大してくと見ています。

 

※このサイトでは分かりやすさを重視します。キャリア形成の世界ではしばしば例外的にセオリーから外れた選択肢が正しかったり、セオリーが当てはまらない状況が発生します。そういった例外についても可能な限り注釈等でフォローしていきたいと思いますが、全ては難しいかもしれません。その点はあらかじめご了承ください。

(C)2019 career-yoshinashi All rights reserved.

)