今回はマーケットバリュー=市場価値を高めるための基本的な戦略について解説していく特集、2回目です。今回のキーワードは「中世ヨーロッパで胡椒を売ろう」です。他の回はこちらから↓
第1回:競争力のあるキャリアを作るのは難しくない、学ぶことさえ止めなければ
第3回:特化と拡張の最適化:市場価値を高めるための、最大多数の最適戦略
市場価値の高め方、これは極端に言えば一人ひとり異なるわけですが、一方で私が何千人もの経歴を拝見してきた経験から言えるのは有効な戦略はかなりパターン化できるということです。そんなわけで今回はそのパターンの大枠をご紹介したいと思います。
※なお説明をわかりやすくするため、この記事では人をモノに例えるような表現が出てきます。その点で不快な表現もあるかもしれませんがご容赦いただければと思います。
市場価値を高める2つのパターン
そもそも市場価値とはなんでしょうか。
以前にもお話していますが、市場価値と年収は別物です。市場価値が高くても人事制度と噛み合ってなければ年収に反映されません。この場合は市場価値が適切に反映される会社にうつる必要があります。なので市場価値を年収に転換するには年収戦略と組み合わせて考える必要があります。
また市場価値は相対的なものです。唯一無二になれなくても、「相対的に」大多数と異なる価値があれば十分です。逆にどんなに素晴らしいスキルをもっていても、同じ土俵にそのスキルを持った人が何人もいればそれはたいした価値になりません。自身が置かれたマーケット(=市場)にどんなスキルをもった人が多いのか俯瞰的に見る必要があります。
そのため、まず最初に自分のマーケットを定義することが大事です。
…ということをふまえつつ本題に入りますが、一般的な会社に勤める社会人にとって、基本的な市場価値を高める方法は大きく分けつあります。
自分を売る場所を変える
自分の持つ商品価値を高める
の2つです。
ところが市場価値を高めてどこでも食べていける人材になろう、と考えるほとんどの人がイメージするのは後者、商品価値を高めるほうです。
これはとにかく努力するという方向性です。
努力は努力で必要な場面もありますが、まずは努力がいらない方向性を考えましょう。それが売る場所を考えるということです。
売る場所を変えて市場価値を高める
中世では胡椒はインドからヨーロッパに持っていくだけで金と同じ価値になったといいます。
これと同じように市場価値を上げるためにはあるマーケットで「相対的に」価値が高いとみなされればよいわけです。
これはつまりマーケットAで評価されなくてもマーケットBに移ることで評価が高まることがあるということです。
特に20代の間は新卒・第二新卒マーケットへのアクセスを通じて未経験職種にも転職できます。これは既存のマーケットに自分の持つ異質性を持ち込むことでユニークな存在になるチャンスがあるということです。
具体的な事例はあとで紹介しますが、先に手順を書いておきます。
転職マーケットも文字通りマーケットの一種ですから、マーケティングにおけるセグメンテーションの考え方が有効です。就職・転職マーケットの基本的なセグメンテーション(切り分け)の仕方は、
職種×業界×土地
です。ここに自分の職種・業界・住んでいる場所を当てはめればそれが自分のいるマーケットがわかります。
これがあなたが今いるマーケット(売る場所)です。
売る場所を変えるためにはこの3つの要素を入れ替えてみて、自分の持っている経験・スキルの需要がありそうなマーケットを探します。
ただしこの戦略には色々制約があって、まず30代以降は職種を大きく変えるのは難しくなります。
またバックオフィス(管理部門)系はもともと業界横断型の職種なので、他業界の知識経験が異分子として役立つことが少ないという特徴があります。たとえば経理職を例にとると月次決算の業務は素材メーカーだろうがSIerだろうがそこまで大差ないため、たいした異分子になりません。
ほかにもプログラマー・デザイナーなどのイノベーション系の職種は業界特化型の職種なので、そもそも業界をまたいだ転職はしたくても難しい面があります。
なのでまあこの戦略は主に職種変更や転居がしやすい20代に向けた方法論ということになります。
このあたりのマーケットに対する考え方はとても大事なのでリンクを貼っておきます。
売る場所の変え方1〜業界を変える
では具体的なパターンを見てみましょう。まずは業界を変えるパターンです。ある特定の業界で不足しがちなスキルを持っている場合、その業界に移るだけで高い市場価値を実現できます。
ではどうやって各業界に不足しているスキルを見抜けばいいのかというと、その業界が主にどういう人材を採用しているのかを予想することです。
これは主要企業の採用ページを見ると大体イメージできます。特に需給ギャップが発生しがちな典型的なパターンは、文系・理系をまたぐパターンです。
文系をたくさん採用していそうな業界×理系的スキル
例)証券会社×ITスキル
一昔前は某メガバンクでもIT人材は契約社員しか雇っていなかったりしたのですが、本格的なフィンテック時代の到来により金融業界全体で技術のわかる人材のニーズがすごく高まっています。一般にトップクラスのIT人材が新卒で証券会社や銀行に入ることはあまりないため、プロパーの社員と明確に差別化することができます。
理系をたくさん採用していそうな業界×文系的スキル
例)高付加価値・高単価型のメーカー×プッシュ型の営業スキル
たとえば自動車部品メーカーにはバリバリの理系出身だったり、開発側から転身してきたセールスが多数配属されていることがあります。そして概して理系セールスは技術的な説明をすることにすごく長けている一方、売ることを苦手とする人が多い。つまり顧客を協力にクロージングするためのスキルやコンピテンシー(行動特性)に弱みがあるのです。そんな中に無形商材やコモディティ品を口八丁の営業力でどうにか売るような経験をしてきた方が入ると無双できたりします。
売る場所の変え方2〜土地を変える
以前年収Upを目指すなら基本的に都市部、特に東京に移るべきと書きました。
ただしもし自身に地方ではレアなスキルがあるなら、逆に地方にいる方が市場価値が高くなり結果それなりの年収と、決して食いっぱぐれない安定性を実現できることもあります。
この例として英語スキル×地方のホテル・観光業界の組み合わせを挙げましょう。英語力のある人材は都市部に偏って存在しており、インバウンド観光需要に応えられていません。
結果、それなりの高級ホテルでも(お金持ってそうな)外国人観光客をかなり怪しい英語で応対しているシーンが多々見られますので、そんな中にしっかりした英語力で飛び込んでいけば物凄い重宝されます。
売る場所の変え方その3〜とにかく人手不足の領域にいく
また、これはもう当たり前の話ですがそもそも需給のバランスが崩れているところにいけば、極端な話労働力自体がレア=高バリュー扱いされます。たとえば3Kな業界だとかパチンコ業界なんかの一般的な就職人気の高くない業界です。こういう業界はその人の持っている能力やスキルに対して比較的高年収を得やすいです。
まとめ
ということで、
- 市場価値を高めるには「自分を売る場所を変える」「自分の持つ商品価値を高める」という2つの方向性がある
- 自分の売る場所を変えるには、まず自分のいるマーケットを知ることが大事
- 自分のいるマーケットは「職種×業界×土地」の3要素で表せる
- 売る場所を変えるには3要素のどれかを入れ替える
ということでした。
さて次回は選んだマーケットの中で市場価値を高めていくための基本的な戦略を解説します。