キャリアについてのよしなし

MBAで元エージェントの外資系採用マネージャーがキャリア形成の戦略と定石を解説します 毎週木曜を含む週1〜2回更新

特化と拡張の最適化、マーケットバリューを高める戦略②

いろいろな人がマーケットバリューの高め方についていろいろなことを唱えていますが、その人の成功体験に根ざしたものだったりするもので、元エージェントとしてはこれはあまり一般化できないのでは、と感じたりします。それはなんのためのマーケットバリューかが明確じゃないからです。

 

マーケットバリューを高めるにも方向性が必要です。年収アップをもたらすマーケットバリューと、職の安定をもたらすマーケットバリューは違います。

 

大事なのは特化することと拡張することの最適化です。今日はそのことを説明したいと思います。

 

年収アップをもたらすマーケットバリューと、安定をもたらすマーケットバリューは違う

何度も書いているように、転職マーケットは年齢とともに細かく分化します。

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そして年収の期待値を定義するのはあるマーケットの中で他の人材と比較してどれくらいの価値があるかにほかなりません。


たとえば、デンソーの大阪のブランチで営業をしている人がいるとします。この人のいるマーケットは「大阪の自動車部品の営業職マーケット」です。

 

こういう自分のマーケット(=土俵)の中で数多の自動車部品営業の人たちとの競争に勝てるような営業実績やスキル、こういったいわば攻めのマーケットバリューはその人に年収アップをもたらします。

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一方で複数のマーケットバリューにアクセスできる、いわば守りのマーケットバリューはその人に職の安定をもたらします。これを定義するのは自分にどれだけ経験・スキルの幅があるかです。

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たとえばある人が人事のなかで採用と労務ができるとします。こういう人は不景気になって採用関連の中途採用ポジションが減っても労務関連のポジションに応募できるかもしれません。

 

この二つのマーケットバリューはぜんぜん違う種類のものです。ですが転職サイトでよくあるアドバイスではここのところがごっちゃになっているので要注意です。

そういうアドバイスが役に立たないというわけではなくて、要は自分の目指すキャリアのゴールと合致しているか?ということなのです。たとえば安定を大事にしたい人が、ある一つの領域を深掘りするようなマーケットバリュー向上のための行動をとっていたとしたら、これはゴールと手段がずれてしまっていることになります。

 

もっとも大事なことは特化と拡張の最適化

攻めのマーケットバリューをつけられるよう私は自分のマーケットにおける専門性を深掘りすることを私は特化と呼んでいます。

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一方で守りのマーケットバリューをつけられるよう、複数のマーケットにアクセスできるような専門性の幅を広げることを拡張と呼んでいます。(図)

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大事なのはこの「特化」と「拡張」を最適化することです。


最適化とはどういうことか

多くの人にとってのベストな最適化のかたちは、ほどほどに特化と拡張のバランスをとっていくことです。

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これはつまり武器になるメイン領域を持っておいて、サブ領域を1〜2つ持っておくことを意味します。サブ領域はメイン領域がダメになった時の保険になりますし、またうまくサブ領域を選べばメインにも相乗効果をもたらします。

いわゆるT字型の経験・スキルをもった人材になること。これがエージェント・人事採用担当としての経験から言える、多くの人にとっての最適解です。

 

例を挙げます。Aさんはもともと代理店で紙媒体を中心としたPRの仕事をしていました。26歳のとき一念発起してデジタルマーケティングの領域に進出すべくWebの学校に入学します。1年間の通学ののち、そこで得たスキルを生かして晴れてデジタルマーケティングの代理店に転職し、10年の経験を積んで素晴らしい実績をつみました。

ここまでくるとこのAさんは

  • デジタルマーケティングの経験・スキル(メイン)
  • 紙広告中心のPRの経験・スキル(サブ)

を獲得したことになり、転職市場で競合に勝てるメインスキル(デジタル)と、より多くの応募先を確保できるサブスキル(PR)を活かして、年収アップの期待値と安定感をバランスよく両立することができるわけです。

 

徹底した特化・集中という選択肢

ただし明確な意図をもって徹底的に特化する、あるいは徹底的に拡張してジェネラリストを目指すならそれもアリです。なぜなら極めれば本来は攻めの方向性である「特化」も守りのマーケットバリューをうむことが、「拡張」も攻めのバリューをうむことがあるからです。

 

徹底的に特化した場合を考えます。たとえば営業職で毎年社内のMVP表彰を受けるような圧倒的な営業スキルと実績があったとしましょう。こういう人は不景気だろうがなんだろうがどこの会社も欲しがるので、結果的に守りのバリューにもつながります。

 

たとえ斜陽産業だとしても100人に1人レベルのハイパフォーマーなら食っていくに困ることはないものです。

 

逆に徹底的に拡張するならそれもそれでありです。たとえば経理も総務も人事もできて法律関係の知識も多少あります、みたいな人は伸びてるスタートアップや外資オフィスの立ち上げなんかで物凄い需要があるので、結果的に高年収につながります。

 

一番良くないのはなんとなくどっちつかずの人になってしまうことです。

たとえば日本のジョブローテのある会社でありがちなのは半端なジェネラリスト化です。去年の記事ですが、人事コンサルタントの城繁幸さんが言っていて「ああ、そうそう」と思ったので引用します。

"ただ、そうした「ジョブが無いおじさん」ですが、そもそも日本企業で働いてきた人で、「自分はこれ(のジョブ)だ!」と言える人はなかなかいないのではないでしょうか。いろんな業務をやってきたからです。"
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1905/24/news035_4.html


「こういうジョブが無い」みたいになると今はいいですがいずれ転職市場で苦しくなります。

 

一方で外資なんかでありがちなのは専門特化しすぎて潰しがきかない人です。こういう人は既に書いたように他を圧倒する経験やスキルがあればいいですが、そうじゃないと何かあった時に行き場をなくします。

 

まとめ

ということでまとめると、

  • 年収アップをもたらすマーケットバリューと、安定をもたらすマーケットバリューは別物
  • 大事なのはこの2つの違いを理解した上で、「特化」と「拡張」を最適化すること
  • 多くの場合、両者のあいだで適切にバランスをとりT字型の人材をめざすのが最適解
  • ただし明確な意図のもとで「特化」「拡張」いずれかに振り切るのはアリ

ということでした。

次回からは「特化」「拡張」それぞれの具体的な方法論について書きます。

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