今日はこういう話をします。ズバリ、
これから生え抜きであることのアドバンテージが消失していくのではないか
という話です。
10月3日の日経新聞紙面(※私は紙の新聞派です)にこのような記事が載っていました。(太字は私です)
自動車業界で自動運転など次世代技術に対応するため、中途採用を拡大する動きが広がってきた。トヨタ自動車は2019年度に総合職の採用に占める中途採用の割合を18年度の1割から3割に引き上げ、中長期的に5割とする。ホンダは19年度、採用全体の約4割に当たる約660人を中途採用に充てる。IT(情報技術)などの専門人材を中心に確保し、給与も実績に応じ評価する。日本の製造業の代表である自動車業界で中途採用が増え、日本型雇用は転機を迎えている。
数字がパッと見でわかりづらいのですが、要するに
- トヨタの直近5年度の総合職採用数は650〜800人だった
- うち中途は全体の4〜13%。つまり多い年でも中途は100人も採用していなかった
- これが来年度は200人程度の規模になり、今後さらに増えていって将来採用全体の5割に達する
ということです。
なぜいま中途採用者が増えているのか
なぜ中途が増えるのかというと、新卒一括採用して育てて、年功序列で処遇するというスキームの維持が困難になっているからです。
その背景には
- 労働力人口の減少
- 女性・高齢労働者の増加
- CASE(自動運転や電気自動車化、シェアリングなどの自動車産業における新しい潮流)の対応に迫られている中、競争が激化している
といった理由があります。
とくに大事なのが3点目で、自動車業界がソフトウェアやインターネット、AIといった領域と重なるにつれ、今まで以上に競争のスピードが上がってしまったわけです。
そうすると新卒採用では人材ニーズに対して追いつかないので中途が増える。こういう流れです。
中途入社者の拡大で薄れる新卒生え抜きメリット
では中途の拡大が意味することは何かというと、
新卒生え抜きであることのアドバンテージが消失する
中途入社であることの不利がなくなる
ということです。
自分自身が生え抜きだと意識しづらいですが、一般的な日本型雇用の会社では基本的に新卒生え抜きの人が有利になっています。中途はあくまで外様なのです。
むかしエージェントにいたとき、某メガバンクの採用のお手伝いをしたことがありました。で、今じゃ考えられないのですが、そこは中途は基本的に契約社員でしかとらなかったのです。
その会社には「会社の軸はあくまで新卒生え抜きであるべき」「新卒を大事に育てて将来の経営幹部候補にする」という強い信念がありました。だから中途は契約で十分。そういうロジックです。
まあこれは極端な例かもですが、中途採用者だと一定のレベルで出世の限界がくる会社は今もたくさんあります。
しかしこうした中途入社者の出世に「ガラスの天井」があるようでは魅力度が下がってしまい良い人は取れません。これだけ各社で中途採用のニーズが拡大すると、必然的に生え抜き社員を明らかに優遇するのは難しくなってくるでしょう。
トヨタは名実共にいまの日本で最強の企業です。そのトヨタが「採用の5割が中途」というのは一つの転機になるように思います。
そんなわけで転職も上手く活用してキャリアアップしようとする人にとっては良い時代になりつつあるのではないでしょうか。
さて余談ですが企業経営の名著・「ビジョナリーカンパニー」では、「永続性のある優れた企業では生え抜きの経営者を重視する」という主張がされていました。生え抜きを大事にするカルチャーが悪いことなのかどうかは議論の分かれるところですね。