キャリアについてのよしなし

MBAで元エージェントの外資系採用マネージャーがキャリア形成の戦略と定石を解説します 現在は不定期更新

総合職型⇄ジョブ型の転職の際に気を付けること

最近ジョブ型正社員の話題に関連して、日本特有の総合職という制度について触れている記事をよく見かけて嬉しいですね。

今日は総合職型⇄ジョブ型の転職の際に気を付けることについて書きたいと思います。

ジョブ型の外資系金融マンは「育てられてない」??

私が日本の(とりわけ大企業の)総合職というものについて初めて強く意識させられたのは人材紹介会社で金融業界、特に日系銀行を担当するようになってからです。

 

たとえばこんなことがありました。ある時メガバンク系の信託銀行に新卒から外資金融一本の男性を紹介しました。外資金融なので、バリバリのジョブ型です。

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当時はリーマンショック後で、転職マーケットに出てくる外資金融人材が徐々に増えてきたタイミングでした。またリーマンショックまでは彼らは「年収が話にならない」といって日系には滅多に見向きしなかったんですが、リーマンで外資金融のリスクが強く意識されるようになり、急に日系企業の人気が上がったんですね。その男性もそんな流れで応募した一人だったわけです。

 

職歴書から見たところスキルセットはばっちりで、これはマッチするなと思いました。

 

レジュメを見せた時は前のめりだった某信託銀行の人事の方が、面接後はいきなりトーンダウンしてしまいました。

人事の方「彼は難しいですね」

私「(えっ)どのへんがですか」

人事の方「うーん。我々のような日系の金融機関の銀行マンというのは色々寄り道をしたりしながら銀行マンとしての幅広い見識を身に着けていくものですが、彼の場合はそういう“育てられた”感じがしなかったんです」

 

聞いた話をまとめるとこういうことです。

今回の候補者の場合スペシャリスト過ぎて銀行内での潰しが聞かない。

その方は日系大手銀の複雑な組織構成に不慣れで、他部門の事も良く分かってないため部門をまたがる調整ができなそうだった。ところが日本の銀行マンというのはそういうのが当たり前にできる。

他の社員(行員)も「銀行マンはこういうもの」という前提を持って接してくるため、苦戦することが予想される。

という感じでした。

先ほど書いたほうに、このときはちょうど採用マーケットが分断されていた「外資系金融人材(ジョブ型)」「日系金融人材(総合職型)」がリーマンの影響で交わりはじめていたタイミングでした。

採用する側の日系金融機関の人事担当者もあまり外資金融の出身者がどんなものか良く分かっていなかったようで、少々面食らっているのを感じました。

「育てられていない」は問題なのか?

上述した不採用理由も驚きだったのですが、個人的には人事の方の言った「育てられた感じがしない」という表現にもカルチャーショックを受けました。

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というのも私がいたような人材系の会社というのは当時はベンチャー的な気質が強い会社が多く、同時にあまり研修をしないのが普通で、

「成長に必要な学びを会社に頼るのはあまい」

「成長できないのを会社のせいにするのは他責」

「成長は自ら機会を作って得ていくもの」

みたいなカルチャーがありました。この業界の親玉であるリクルートの影響もあったと思います。

そもそも個人事業主的なビジネスで、他社員はみな競争相手みたいなところがあるから、そういう風になりやすいのかもしれません。


とにかく、「育てられた」という表現は当時の私には非常にヌルいというか、温室育ち過ぎる感じがしてびっくりしたわけです。

 

ですが、あとで考えてみるとその人事の方のいうことも一理あります。

外資のようにジョブ型雇用をしている会社では、普通に仕事をしているだけでは専門領域外のスキル・経験・知識を得る機会が得づらいんですよ。

 

日系企業のやるような長期の研修とかジョブローテとかの機会というのは、言い換えると「幅広い見識を身に着けるための寄り道」です。

こういうのはやっぱり会社に与えられない限り、なかなかやるチャンスはないですよね。その意味ではやはり育てられたという言い方は的確なのです。

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ここで大事なのは、ジョブ型雇用の中で専門スキルをつけて成長していくことと、総合職雇用によって「育てられていく」ことは、人材としての仕上がりが全然違うタイプになるということです。つまりどちらが優れているとかではありません。

 

ちなみに外資の大企業でも、社内で潰しの効く人材を育てるためにある種のジョブローテをすることはあります。私の知る限りそういうのは最初から幹部候補に限定されていることが多いです。有名なのはGEのリーダーシッププログラムとかですよね。

 

日系大手のように総合職採用された社員全員にそういう機会と働き方を求めるというのは、裏を返せば総合職は皆(少なくとも名目上は)幹部候補として採用されるということです。

総合職型⇄ジョブ型の転職の際に気を付けること

したがって、総合職型とジョブ型をまたぐような転職をするときは注意する必要があります。

具体的にはこんな感じです。

総合職型→ジョブ型の会社にうつるときは:

キャリアは自分で開発していくんだ、というキャリア自律の意識を強く持つ必要があります。ジョブ型では自分を育てる主体は自分になります。下記のような記事を参考に、どうやったらマーケットバリューを高められるか戦略的に考えていく必要があります。

 

また同僚はある職種に特化してキャリアを作ってきた人が多いですので、彼らに対抗できるように知識面を早めに強化すると良いと思います。

ジョブ型→総合職型の会社にうつるときは:

他の総合職のメンバーは自分と違ってジョブローテを繰り返し、様々な知識つけたり社内人脈をつくったりしながら今のポジションにいることが多いです。そしてそうした知識・人脈を生かして、大企業の複雑な組織でも難なく根回ししたり段取りを組んだりできます。

 

こういうスキルはなかなか一朝一夕には身につかないので、同じ芸当をやろうとしない方がいいですね。だいたいジョブ型タイプの人を採用する場合というのはその方の専門知識・スキルに期待することが多いです。なので焦らずに自分の土俵でしっかり成果を出す意識を持つことが大事だと思います。

 

 

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