キャリアについてのよしなし

MBAで元エージェントの外資系採用マネージャーがキャリア形成の戦略と定石を解説します 現在は不定期更新

企業側はなぜ前金型のヘッドハンターを使うのか、その裏事情

今日はちょっとした採用側の裏話です。

リテーナーサーチという、着手金の支払いが必要なタイプの人材紹介があります。
着手金を払ってまで採用するくらいなので、対象は経営管理層、いわゆるエグゼクティブクラスになります。


おそらく日本で一般的にヘッドハンティングという言葉から連想されるのはこれではないかと思います。

 

日本で、と書いたのは私の知る限りの海外(欧米や東アジア圏)ではヘッドハンティング・ヘッドハンターは単に一般的な人材紹介を含めて指すことが多いからです。日本でイメージされる経営管理層向けのヘッドハンティングはエグゼクティブサーチと呼ばれます。

 

手数料には最低保証額(ミニマムチャージ)が設定されていることが多く、またそもそも想定年収がかなりり高いものしか請け負ってくれません。

一般的なエージェントがサービスメニューのひとつとしてやっている場合で年収1400万円くらいから、専業のエグゼクティブサーチファームでもう少し高いと思います。手数料率は年収の30~40%あたりになるので、一人決定で500万とか場合によっては1000万円以上のお金が動きます。

さて採用したい企業側がエグゼクティブサーチを使う理由ですがこれは2つあって、一つは一般的に想像されるように極めて特定の人物なりグループなりを引き抜きたい場合です。たとえばA製薬に雇われたヘッドハンターが別のB製薬で務めるCさんをバイネームでスカウトし、執行役員営業本部長として引き抜く、といった具合です。あるいはそこまで具体的でなくても、たとえば製薬業界のハイレベルな営業マネジメント経験者を候補者のプールとしてそこから採用したい、みたいなパターンです。

エグゼクティブサーチ会社は社内にリサーチャーと呼ばれる候補者をリストアップしたり電話でアポイントを取ったりする人たちを抱えていて、あの手この手で人を集めてきます。そして着手金はこの動きを取るために必要という建付けになっています。

 

で、ここからがキモなんですが、
実は一般的な人材紹介会社でも高年収帯を得意とする一部の会社であれば実は経営管理層クラスの人材もかなり抱えています。つまりエグゼクティブサーチ会社のリサーチャーが集めてきた候補者リストにいる人たちは、これらの人材紹介会社のデータベースにもわりと存在しているのです。かつこれらの一般紹介会社は着手金ナシでも請け負ってくれることが多いので、ローリスクでシニア人材の採用が可能です。

ではなぜそれでもエグゼクティブサーチに着手金ありで頼むのか?それは依頼する会社側(中小企業の社長とか、大手企業の人事や採用部門責任者が多い)の社内事情が絡んできます。

 

たとえばある大企業でファイナンスの責任者の採用ニーズがあり、人事部長と採用課長で人探しをすることになったとします。人事部長からするととにかく早く候補者を集め社長に提出できないと怒られます。こういう時に着手金ありのサーチは依頼するとすぐにかつ確実に案件が動いていくので人事部長としては安心できるのです。この安心料がリテーナー側のエグゼクティブサーチに頼むもうひとつの理由です。

 

実は着手金なしの人材紹介でも、事業部長とか執行役員で年収1500~2500万円くらいのゾーンであれば意外と成功報酬型の会社でも採用できます。そのためには多少コツがあって、まず日ごろから高額帯に強くかつ自社のファンになってくれているヘッドハンターとつながっておく必要があります。その上でその人に1ヵ月くらい専任で案件をお願いすると十分にスピーディーに良い候補者リストを作ってくれます。ですがこれは一朝一夕にはできないですし、人事部長としては本当に案件が進むか不安になるので、結果エグゼクティブサーチに頼ることになるわけです。

 

戦略系コンサルティングなんかもそういう面があると聞きますが、BtoBのビジネスは往々にして社内政治における安心料とかハクをつけたいみたいな理由が存在だったりします。このヘッドハンティングの世界でもそういう側面があるというわけです。

ジョブ型雇用についての雑感

久々の更新になります。

諸事情で1月からずっととんでもない繁忙状態になってしまい、夜も週末もひたすら働く感じになっておりサイト更新まで手が回らず。

今回この多忙を極めた状況を経験する中で、改めてジョブ型の難しい面を実感しました。それっはジョブ型の会社は人員の融通がきかないということです。

ジョブ型は人員の融通がきかない

私が現在勤めているのはまさに典型的ジョブ型雇用の外資系企業の人事なのです。ジョブ型の会社においてチームが業務過多になったときにそれを解消するためには基本的に3つ方法があります。1つは業務量をどうにか減らすこと、2つ目は業務を効率化すること、最後が外部からのリソースを確保することです。

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業務過多なときに、役割分担があいまいなメンバーシップ型の会社だと、「人事総務部」みたいな部署の中でそのとき一番忙しい業務に比較的柔軟に人を回すことができます。

 

ところがジョブ型の場合、たとえば人事のなかでも採用・研修・労務といった具合に細かく専門職種に分かれてしまっていて、その垣根を超えてフレキシブルに人をアサインすることがしづらい。

変なはなし、人事の中でヒマにしている人がいても「その人をちょっと借りる」というようなことがしづらいのですね。

同じ人事でも採用担当と研修担当はある意味全く別の仕事として扱われます。だから同じ人事の中でも別の仕事をやりたいと思えば正式な手順を踏む必要があります。

 

だからジョブ型の場合、そのときの業務量に応じて機動的に人員の増減をできるようにする必要があります。日本の場合、正社員の解雇規制が厳しいためそれは必然的に派遣・契約・請負といった形態になります。

これが後手に回ると既存メンバーがとんでもなく忙しくなります。まさに私が今そんな状況で、ジョブ型のマネージャーとしては非常に良くない例なのですが、まぁ思うように人員補強が進まないというのは管理職の誰もが抱える悩みでもあります。

 

それでもジョブ型への移行は進んでいく

ジョブ型のネガティブな面について書きましたが、それでも私は日本社会全体にジョブ型移行していくべきだと思いますし、実際に移行が進んでいくと思います。

 

これは日本の大企業がグローバル化していくに従って、グローバルな人事制度の主流であるジョブ型を受けれざるを得ないからです。逆にジョブ型を導入しないと、いつまでたっても日本の本社と海外現地法人の間で異なる人事制度が併存することになり非効率です。それに海外現法からの人材登用において問題がおきます。

そして大企業がそうなれば中小企業も追随するでしょうから、最終的にはジョブ型への大きな転換が進むのではないしょうか。それにどれくらい時間がかかるかは分かりません。

 

先日日本を代表するような財閥系企業の方々とお話しする機会があったのですが、そうした会社でもすでにジョブ型に移行しているところもあれば現在も国ごとに完全に人事制度がバラバラになっている会社もあると聞きました。

ただもともと医療機関などでは医師・看護師といった専門職によるジョブ型雇用になっています。また一部のメーカーは理系に限ってほぼ異動を強制されない半ジョブ型みたいになっているケースもあります。そう考えると思ったほどは時間がかからないかもしれません。

 

本日の更新はお休みします

書きたいネタがあるのですが、久々に今日の定期更新はお休みします。

いかんせん私の会社ではいまが新卒採用のピークになっておりマネージャーの私も多少駆り出されてまして、その影響で祝日まで働いてますね。

 

まあ本来管理職まで現場の仕事でバタバタしてるのって良くないのでしょうが、私の務めるような中小企業ですと人員にも限りがありますしなかなかそうもいかないですね。

もう少し効率的にやりたいもんですが。

 

できれば日曜に更新したいと思います。

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キャリアの足かせになる思い込み

この仕事、採用とか転職絡みの仕事をしていると多くの人が<強力な思い込み>によってキャリアの幅を狭めてしまっていることに気づきます。

 

メンタルブロック、アンコンシャスバイアス、ブレインロックなど様々な表現がありますが、要するに私達は
●●はXXでなければならい
●●はXXであるべきだ
といったある種の信念に囚われがちということです。

 

お話しを伺っていますと、こういう思い込みはとにかく周囲の価値観に影響されてできていることが多い。

 

人間は環境から強く影響を受けますが、これがポジティブに働けば前回も触れた「人的資本の外部性」として良い結果をもたらします。

たとえば進学校にいると周囲の刺激で成績が伸びるような、良い外部刺激のこととです。

 

一方で上述したように外部環境からの影響は私たちの物の考え方をしばってしまうこともあります。最近はそういうことを「呪い」なんて表現したりもしますね。これはキャリアについても同様です。

そこで今日はその代表的なものに触れて、こうした思い込みを客観視できるようにしたいと思います。以下具体例を挙げていきましょう。

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会社はなるべく続けるべきだ

辞める人間は負け組だ、なんていう表現もあります。最近は減ってると思いますが、それでも保守的な会社・保守的な土地ではこういう思い込みが強く根付いていたりします。

~年は1つの会社にいるべきだ

ネットでもこういう表現はたくさん見かけますね。

かくいう私も下記のエントリーで、マーケットバリューの観点からできたら3年はつとめた方が良い、と書いているのですが、

短期離職はどのくらいまで許容されるのか?【人事の本音】 - キャリアについてのよしなし


とはいえこれもあくまで一般論にすぎません。会社が自分のモラルと決定的に反するような違法なことをしているとか、今にもメンタルを病みそうだとか、ケースバイケースで考える必要があります。

自分はこの仕事が向いている・この仕事が天職だ

今の仕事への満足度が高い場合にこう考えるケースが多いですね。それ自体はいいのですが、問題はこの思いに囚われてしまい、新しい仕事へのチャレンジに過度に後ろ向きになってしまうときです。

 

今の時代ある職種が消滅したり、あるいは同じ職種でも求められる動き方が大きく変化したりといったことが起きます。

こういった中では自分はこの仕事しかしたくない、できないというような不必要な思い込みは捨てるべきですね。

自分はこの仕事が向いていない

逆に現職であまり評価されていない(と自分が感じている)ときに生まれやすいですね。

 

同じ業界・職種でも成果を上げるためのツボは違います。また会社によって同じ成果をあげていても評価が変わります。これは評価基準が異なるためです。

 

このように、成果やその結果得られる評価は絶対的なものではなく、同じ職種だとしてもおかれた環境によって大きく変わるものです。

 

自分はXXX円くらいの年収を得られるべきだ

周りの同僚や自分の友人などと比べて、自分の年収が低い場合にこういう思いを抱くケースを見かけます。

努力家で、頑張って素晴らしい経歴を形成されてきたタイプに多いですね。

 

このサイトでは何度も書いているように年収というのはなかなか水物ですし、努力でどうにかできる部分とできない部分があります。

 

なのであまり他人と比較してフラストレーションを貯めるより、自分の絶対的な幸福度から照らし合わせて今の給料が充分かを考えた方がいいですね。

 

年収XXX円くらいないと生活できない

とくにシニア目の方に多いですが、希望年収水準を高く設定しすぎるがあまり、転職できなくなってしまっているケースがあります。

生活水準を下げることを受け入れてしまえば、転職の幅が広がって返って幸福度が上がることもありますから、時にはこういう思い込みにとらわれていないか考えてみることも大事です。自分を安売りする必要はないですが。

 

アフターコロナのフェイストゥフェイス、私たちはどこに住むべきか?

都市部から郊外への移住がトレンドになっているようです。

"新型コロナの感染拡大がはじまってから、あっという間に2020年が過ぎていきました。その中では新型コロナがライフスタイルや社会に与えた影響やその変化も数多く取り上げられました。

その一つに「新型コロナの感染拡大によるテレワークの拡大や自粛による外出機会の減少、広い家などのニーズによって郊外に住もうと考えている人が増えている」というものがありました。"

"このように、賃貸、マンション、戸建てそれぞれ傾向は若干異なるものの、住む場所の関心がより郊外へ向き始めていることはデータの面からも実証されたといえるのではないでしょうか。"

住みたい街は本当に都心から郊外へ? 新型コロナがもたらした変化をビッグデータで検証 - Corporate Blog - ヤフー株式会社

こういう社会的なトレンドとか流れみたいなのを見るのは単純にとても面白いですね。

 

 

東京はいい加減人口過多な感じがあり、都内はどこも家賃が高くてしょうがないですからこれ自体は良いトレンドですね。

 

またリモートワークも、進捗は遅いながらも着実に定着してきているように思います。これも良いことだと思います。

 

なんですが、

  • 今後人口の少ない郊外への移転が継続的なトレンドとして定着するか?
  • オフィスで働く人の大半がリモートワークに移行するか?

といえば、私は多分どちらについても答えはNoになると思います。

 

理由は単純で、最近つくづく人は対面が好きなんだと実感するからです。私自身は現在ほぼフルリモートですが、たまにオフィスに用が都内に出ると場所を問わず本当に人がいます。

 

政府のメッセージングがよくないとか色々言われていますが、それでも曲がりなりにも緊急事態宣言が出ていて、当然コロナにかかるリスクもある中でこれだけ人が出てるわけです。

 

当然コロナ怖いし家に篭りたい、あるいは人と会うのは苦手だという人も一定数いるわけですが、それと同時に人と直に会いたい人がめちゃくちゃいる。

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そもそも考えてみればIT・ソフトウェア系の産業なんかは(インフラ系を除けば)コロナ前からリモートで仕事ができたはずなのですが、にもかかわらずシリコンバレーはずっとこの産業の集積地として規模を拡大してきたわけです。

 

要するにはこれは人が物理的に集まっていること自体にやはり何らかの価値があって、それはリモートでは満たすことが難しいものなのでしょう。

 

ではそれは何かいえば、やはり人的資本の外部性、つまり人間が集まってお互いに刺激し合うということに尽きると思います。この点は以前も論じました。

"人的資本の外部性とは何かというと、要するに進学校にいると周りが勉強するからそれに刺激されて勉強するようになったり、刺激を受けて自分も知的関心が高まる(その結果経済的な恩恵を得られる)みたいな、環境が人に影響する力のことです。
イノベーション職種というのは知識職なので、こういう知的刺激・知的関心を得られるかどうかが将来の市場価値にもろに影響します。
なのでイノベーション職種の人はたとえば- 凄い技術者との"リアルな"出会いや交流がある- 先端技術に関する勉強会やセミナーに参加しやすいといったチャンスを得られるという、それだけの理由で都市部にいるべき理由になります。"

 
これはやっぱり(少なくとも今の技術では)リモートだけでは代替できない価値なんだろうと思うんですね。

 

さすがに都心に人手が多い理由は人的資本の外部性が全てです!とまで言い切るつもりはありませんが、「人に直接会いたくてしょうがない人たち」の中に、こういう直接合って得られる刺激というのをすごく重視している人たちがいるのは間違いないでしょう。

 

今後リモートワークは一定の定着を見せるでしょうし、育児・介護と仕事をバランスさせたり、住環境を重視する層のニーズに応えたりという形で選択肢の一つとして定着するかなと思います。

 

しかし一方でおそらくフェイストゥフェイスのミーティングも残り続けます。それでコロナ禍がひと段落した段階で対面の価値みたいなものが見直されるタイミングがきて、またどこかで東京への一極集中トレンドが再開するというのが私の予想です。それがいいことかどうかは分かりませんが。

 

いずれにしても前々から書いているように住む場所を決めるというのはキャリア形成戦略上とても大事なことですので、今後トレンドがどういう方向を向くかは注意していきたいですね。

 

回答準備中です&IT業界で初めての転職が減少傾向?

前回の記事で、

www.career-yoshinashi.com

という具合にキャリア相談を募集させていただいたのですが、ありがたいことに早速いくつかご相談をいただくことができました。

現在いただいた順番に順次お返事させて頂いていっていますのでまだの方は今しばらくお待ちください。自分の勉強も兼ねて色々調べつつ書いているところもあり、結構時間を頂いてしまっております。

 

IT業界で初めての転職が減少傾向?

さて話題は変わりますが、IT系転職エージェントのレバテックキャリアが面白いデータを出していました。

2019年と比較して、2020年は「初めて転職活動をする」人の割合が小さくなっており、昨対比で5.5ポイント減少しています。市場の先行きが不安定な中、1回目の転職に乗り出す人が、一旦市場動向を見守る姿勢に入ったことが影響しているといえるでしょう。

https://career.levtech.jp/files/img/guide/knowhow/files/08_転職回数.jpg

出典:

https://career.levtech.jp/guide/knowhow/article/574/

面白いことに2回目・3回目の人はむしろ割合が増えています。

 

IT業界は転職が比較的一般化しているので、はじめて転職する人は20代の方が多いです。そのため一瞬「20代のIT転職マーケットが悪化したのかな?」と思ってしまうのですが、実際には同社に登録する20代の求職者割合は増加しているようです。

2020年における登録者の年齢層は、20代が昨年から7.5%伸び、全体の55.8%を占める結果となりました。

特に20~24歳は昨対比で5.8ポイント上昇しています。若い世代は自らの訴求に素直な傾向にあるため、入社後のギャップを早期解決するために、短いスパンで転職を検討している若手エンジニアが増えています。

要するにこういうことだと多います。

●20代はコロナ禍下においても積極的に転職活動をしている

30代以上でまだ転職したことのない人達が転職を控えるようになった

30代以上になると結婚して家庭があったりローンを組んでいたりしますから、リスクテイクを避ける心理は理解できます。

 

一方で一度転職を経験してしまうと転職によるリスクテイクに慣れてしまうのか、さほど保守的にならなかったということかもしれません。上記の記事からは「30代×転職初めて」という属性にしぼった属性はわからないので推測ですが。

 

コロナが人の心理にどういう影響をもたらしているかが透けてみえるようで面白いですね。

 

こういう時は過度に保守的になりすぎて目の前のチャンスを逃していないか、自分に問いかけることが大事だと思います。

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