今回は市場価値(マーケットバリュー)の上げかた、
特に社会人の自己投資のコツについて、私がリアルオプション自己投資と呼んでいる手法をご紹介します。
【目次】
自己投資の上手な人・下手な人
採用をやっていていろいろな人を観察していると、上手にキャリア形成し市場価値を高めている人の多くは普通より上手に自己投資しているのです。
こういう人は一時的な出費・消費があっても、あとからそれを年収アップや自分の望むキャリアの実現という形で上手に回収している。(ここでいう出費はお金だけでなく時間も含みます)
ではこういう人は何がちがうのか。
結論から言うと、彼らはリスクマネジメントが上手なのです。
今日ご紹介するリアルオプション自己投資という考え方は、このリスクマネジメントを自己投資に取り入れようというものです。
自己投資のリスク面とは
自己投資を考えるときに最初に知っておくべきことは、「長期的なキャリアプランは狙いがはずれることが多い」ということです。
この話は興味があれば計画的偶発性理論というワードで検索していただけると色々理解してもらえるんですが、すごく簡単にいうと「すごく計画的にキャリアを構築するより大まかなビジョンだけ持っておいてフレキシブルにキャリア形成していった方がうまくいくことが多い」みたいな感じです。
さらに今はVUCA(Volatile, Uncertain, Complex & Ambiguous - 不安定・不確実)な時代なので、あまりに長期計画的にキャリア形成に動くのはなおさらおすすめできません。
私がよく使う例なのですが、2008年のリーマンショック発生時、当時のトヨタ社長が日経新聞のインタビューで「予期できなかった」と語っていました。
世界最大級の自動車メーカーの社長ですら予期できないことが起きるのが今の時代なのです。したがってキャリア形成を考えるさいも、我々のような普通の一般人には予想できないことだらけだという前提にたつべきなのです。
とはいえ完全に行き当たりばったりのキャリアもおすすめできません。ある程度のビジョンと戦略があった方がよい。ただしそれは柔軟に変更できるものであった方がよい。それが私の基本的なスタンスです。
自己投資の2つのリスク
もう少し具体的に掘り下げてみます。自己投資には二つのリスクがつきものです。
①環境変化リスク
ひとつめは環境変化のために投資回収が困難になったり、費用がかかり過ぎるようになったりするリスクです。
例を上げましょう。
2000年代中頃にUSCPA(米国公認会計士)ブームが起き、この資格さえあればBig4と呼ばれる大手会計ファームに移転価格税制などのポジションで入って大幅に年収Upできる時代がありました。
ところがその後ニーズが充足してどこのファームも急激に採用を絞り込んでしまいました。米国公認会計士の資格予備校は通常数十万の必要がかかるのですが、こうなると費用回収にかかる難易度が上がってきます。(今は弁護士なんかも近いところがありますね)
別の例で、これは自分のケースですが、私はたまたま超円高タイミングで留学できたので費用がぐっと抑えられたのですが、これが2007年頃だと円安で倍くらいかかっていました。会社の同期がこの時期にイギリスに滞在していて、スタバの小さいラテを飲むのに600円かかる!と悲鳴をあげていた記憶があります。
そう考えると数年がかりで留学準備をする、といった行為がいかにリスキーかわかると思います(私はやったんで人のこと言えないんですが)。
②実際は向いてなかったリスク
ふたつめは、そのスキルや資格を活かせる仕事を実際にやってみたら、自分が向いていなかったり熱中できないことが判明したというリスクです。
たとえば若ければ簿記の資格があれば未経験でも経理に転職することが可能ですが、資格の勉強と日々の経理実務は別物です。
やってみたら意外と定型のルーティンワークが多くて向いてないことが分かった・・・こんな例は結構目にします。
まとめると、自己投資で考えるべきリスクは以下の2つです。
1 環境変化リスク-環境変化のために投資回収が困難になったり、費用がかかり過ぎるようになったりするリスク
2 実際は向いてなかったリスク-そのスキルや資格を活かせる仕事を実際にやってみたら、自分が向いていなかったり熱中できないことが判明するリスク
ではこうしたリスクにどう対処したら良いのでしょうか?
リアルオプション自己投資とは
自己投資のリスクをどうマネジするか。自己投資も投資の一種なのでファイナンス、特にプロジェクトファイナンス分野の考え方が役に立ちます。
ここでリアルオプションの考え方をご紹介します。グロービスのサイトから引用しましょう。
*リアルオプションとは
リアル・オプションの原理は、不確実性のある将来において、柔軟性を持つプロジェクトや資産は、そうではないプロジェクトや資産に比べて高く評価できるというものだ。柔軟性を持つとは、ある状況が明らかになった段階で、継続か中止かなどの判断が可能な場合をいう
要は、投資の良し悪しを判断するさいに
- 途中でフレキシブルに撤退できたり
- 小さく始めて大きく育てられる
ようなものを高く判断するのがリアルオプションです。
たとえば、やはり会計系ですが税理士はリアルオプション的に高く評価できる資格です。税理士試験は科目合格制なので、比較的小刻みに継続か撤退かを判断できます。加えて科目合格でもある程度転職市場で評価されるので、その分リスク①(環境変化リスク)を抑えることができリアルオプション的に有利と言えます。
資格学校の選定なんかも同じことが言えます。前金で全学費を納入必須な学校などは危険で、セクションごとに分割納入できたり月謝制になっているような学校を選ぶべきです。資格をとろうと決意するとテンションが上がってどんと払ってしまいがちですが、一度冷静になりましょう。
リスク②(実際は向いてなかったリスク)についてはどうでしょうか。
たとえばプログラミングは実際の仕事を事前にイメージしやすく、リアルオプション的に有利です。
この場合転職などでプログラミングにフルコミットするまえに、自分でアプリを作ってみたりすることで比較的実務に近いことを試してみることができます。そのため事前に「向いていないリスク」が実際に存在するかをある程度検証できるわけです。
(これがものづくり系のエンジニアだと自宅で気軽に試作したりしづらいので、向いてなかったリスクの検証が難しいのです)
リアルオプション自己投資のメリット
リアルオプションの良い点は、不確実な時代への対処しやすさと、何よりある意味でリスクを取りに行きやすくなる点にあります。
プログラミングが自分に向いているかを試すために、いちから勉強して簡単なアプリを作るくらいなら本気を出せば半年で実現できます。もし結果「向いてない」という判断になったとしても、それくらいの時間投資ならさほど惜しくないでしょう。
このように、自分がしようとしている自己投資を一度客観的にレビューすることで上手に投資回収できるようになります。
時にはオールインも必要?
もちろん自分の希望するキャリアプラン次第ではほとんど”オール・イン(全賭け)”でたくさんのリソースを突っ込まないといけないケースもあります。
私の場合海外MBA取得のため全財産とプライベートのほとんど時間をオールインしましたが、結果賭けに勝って年収的にもキャリア形成的にも大きくジャンプすることができました。
また法的正義実現のために情熱をもやして弁護士試験に挑戦するとか、打算抜きでリソースを突っ込むのも一つの立派な価値観です。
結局繰り返しですが、キャリア形成においては自分の価値観で何が大事かを明確にさせておくことが大事なのです。
関連記事です。自分にとって大事なことを明確にすることがよいキャリア形成の最初の一歩です。