失業してしまった時の気持ちの落ち込みをどう乗り切ったら良いでしょうか。
世界恐慌の際に世界で初めて行われた「失業の心理的な影響」を調べた研究があります。
マリエンタールという街で行われたこの調査では、人々いかに失業によって無気力になっていたかが示されました。失業手当を受けている間、人々は時間の感覚を失い、将来への意欲を失ってしまったといいます。
つまり人間には仕事を通じて社会への参画、貢献しているという感覚が必要なことが示唆されたわけです。
いまベーシックインカムなんかもしきりに議論されていますが、この調査結果からはベーシックインカムでは就労を通じた人間の尊厳は満たされないことになります。
さてこれは太平洋南西部に浮かぶ島国、ナウルの歴史と対比すると非常に面白くてですね、
ナウルは19世紀の最後の方にドイツの植民地になったあと、島全体にリン鉱石が存在していることが判明します。ナウルはサンゴ礁の島なのですがサンゴの石灰と海鳥のフンが結びついてできたリン鉱石が大量にあったわけです。
リンは化学肥料になるほか、食品の添加物になったりします。あと大昔に「歯が白くなる」ということでバカ売れした例の歯磨き粉とかに入ってる成分(ハイドロキシアパタイト)にも含まれます。海鳥のフンが最終的に歯磨き粉として人間の口に入っていくわけで想像すると気持ち悪いのですが、それはともかく。
ナウルは1968年に独立してリンを売ることでめっちゃお金持ちになりました。
"その結果、1980年代には国民1人当たりのGNP(国民総生産)は2万ドルにものぼり、それは当時の日本(9,900ドル)の約2倍、アメリカ合衆国(1万3,500ドル)の約1.5倍という世界でもトップレベルの金満国家に生まれ変わりました。
医療費もタダ、学費もタダ、水道・光熱費はもちろん税金までタダ。
そのうえ生活費まで支給され、新婚には一軒家まで進呈され、リン鉱石採掘などの労働すらもすべて外国人労働者に任せっきりとなり、国民はまったく働かなくても生きていけるようになります。
その結果、国民はほぼ公務員(10%)と無職(90%)だけとなり、「毎日が日曜日」という“夢のような時代”が30年ほどつづくことになりました。”
ところがその後リンが枯渇してしまいナウルはいきなり貧乏になるのですが、それでもぜんぜんまともに働こうとせずに、難民受け入れをタテにオーストラリアからお金をせびったりとかかなり滅茶苦茶やっていて、このあたりの経緯はすごい面白いのでぜひ調べてください。
それでまあ、この話を知るとマリエンタールの調査結果と逆というか、人間は基本的に働きたくない生き物なのかなと思ってしまうわけです。
実際のところ労働に対して性善説と性悪説、どちらがただしいのでしょうか。
私の仮説はこうです。人間の就労意欲を決めるのは環境=社会のムードとシステムである、と。つまり世の多くが働いていると罪悪感を感じてしまって働かなきゃと思うし、失業手当を働けていないときのあくまで例外として給付するとその人の自己肯定感(セルフエスティーム)が低下する。
ところがナウルのようにみんな働いてなくて、生活費も当たり前のものとして支給されるなら自己肯定感は下がりません。それでみんな平気な顔でグータラするようになる。みんなやる気なくてサボりが横行している職場とか部活ってその状態に疑問を持たなくなりますよね。人間がいかに環境に影響される生き物かについての文献は枚挙にいとまがありません。
翻って日本社会はどうかというと、基本的にはやはり勤労が美徳とされるお国柄で、ついこないまで働き盛りの年代のお父さんが平日から住宅街をブラブラしていると白い目で見られるようなところだったわけですから、その就労への圧はなかなか強いものと思います。
それで失業期間中に自己肯定感を高めるための方法ですが、(生活が逼迫してなければ)たとえばいっそボランティアで働くのが良いと思います。
失業中にボランティア?と思われるかもしれませんが、失業による無気力は転職活動へのエネルギーすら奪いかねないですし、なによりボランティアは自分自身を高める意欲などが生まれることが指摘されています。
援助行動経験が援助者自身に与える効果: 地域で活動するボランティア に見られる援助成果
ということでもし失業してしまったら、転職活動とボランティアでボチボチ時間をつぶしつつ、あとはバナナとか卵とかの料理をつくって脳ミソにセロトニンを補給しながらリラックスして構えましょう。